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これから始まる(3)

   「やだよ、帰れって」     片膝をベッドに置いた彼を思いっきり突き飛ばした。それから布団をもう一度しっかりと被り、何があっても入れてやらないぞって主張する。 だってさ。 あの頃とは違うんだ。 身体と心が成長しただけじゃない。 彼に対する気持ちだって、大きくなってるんだから。 「ひかる、一緒に寝ようって」 「やだってば」 だけど、抵抗も虚しくあっさりと布団を奪われる。 すぐ近くには、彼の顔。 単純な俺はまた、すぐに頬が熱くなる。 くそ、隠すものもないじゃないか。 「理由は?」   咄嗟に手で顔を覆うも、その手も彼に掴まれて。 ああもう。 なんてことをするんだ。 「せ、狭いじゃん」 目を逸らして、必死に思いついた理由を口にする。 「そんだけ?」 それだけなはずがない。 でも、俺にはそれしか言えない。 コクリと、頷いた。 目を瞑って彼の顔が見えないように。 そうじゃなきゃ、この距離に耐えられない。 頬も、掴まれている手も、全部が熱いのに。 この距離で顔なんか見てしまったらもう終わりだ。 「それなら問題ねぇよな?」 「……っ、」 ベッドが、さっきよりも音を立てて軋む。 もう、言葉も出ない。 「お、すっぽり収まった」 彼がベッドに寝ころび、それだけじゃあなく、当たり前のように俺を抱きしめたから。

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