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口実(1)

「何度言ったら、貴方は分かってくれるんですか!」 生徒会室に響く、彼の声。普段よりも低いその声が、今の彼の気持ちを表しているよう。 俺に呆れて、俺に怒って。いい加減にしてくれと、そんな感情が流れてくる。 眼鏡の奥で光る目からも、俺の腕を掴むその手からも。 あぁ、でも仕方がないじゃあないか。 俺には、こうすることでしかお前の気を引けないのだから。 「悪かったって、さっきから謝っているだろう? いい加減許してくれよ。……な?」 「そう言って、貴方はまた同じことを繰り返すのでしょう?」 誰もいないこの生徒会室で、会長の俺に呆れ顔で説教しているコイツは一つ下の副会長の高尾。 キレている理由は毎回同じ。 それは高尾にとって神聖な生徒会室に、俺が女を連れ込むから。 「あなたが持ってる鍵は私が預かります。ほら、渡しなさい」 「嫌だ。誰にも邪魔されずに遊べるのは、ここだけしかないからな」 「誰にもって……。同じ鍵を持ってる私には毎回邪魔されているでしょう?」 “バカですか?”とでも言いたそうな目を向け、高尾が大きなため息をこぼす。 そうだよ、俺はバカだ。自覚だってちゃんとある。 でもお前だってバカだ。 俺はお前に邪魔されると分かっていながら、こんな意味もないことを何度も何度も繰り返しているのだから。 それに気づかない、──俺の気持ちにも気づかないお前だって、よっぽどバカだろう? 俺は、俺の腕を掴む高尾の手に自分のを重ねた。大きくて温かい手。高尾のこの手も、好きで好きでたまらない。

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