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見てるよ。(18)
──俺の気持ちが分かったのなら、今、俺を見て。
原田、と強く名前を呼ばれ、顔を上げた。涙で視界が滲んでいるけど、でも、分かった。
いつもの優しい笹野くんの笑顔が、少しだけ違って見える。
うまく言葉にはできないけれど、優しさだけじゃない何かがある。
それは僕が彼を見る時と、同じ感情。閉じこめて隠しておけないほどの……。
「やっと見てくれた」
「さ、さのく……ん、」
「俺も、同じだよ。原田が好き」
「……っ、ん、」
ぽたぽたと、涙が床に落ちていく。
顔が悲惨なことになっていそうだから、僕は隠すようにして俯いた。
それなのに、笹野くんにはそれが通用しない。
見られたくない顔も、可愛いからって言って全部見ようとするんだもの。
「原田、ねぇ」
足首を掴んで揺らしていたのに、それでも僕が顔を上げないからか、揺らすのをやめて、指先でくるぶしをなぞった。
「原田の嘘のせいで、完全に遅刻だな。授業、どうしよっか」
「……っ、」
それを言われたら、抵抗できない。僕のせいで、授業に間に合わなかったんだもの。ゆっくりと顔を上げ、笹野くんと視線を合わせると、彼は真顔でじっと僕を見つめると、それからイタズラな顔をした。
「足、くじいたんだもんな。保健室に行かないと」
「えっ、」
「原田は歩けないから、さっきみたいに抱っこしてあげなきゃね」
「や、」
「それとも、抱っこされたまま教室に行きたい?」
「笹野くんっ、」
立ち上がって逃げようとする僕の足首を、逃がさないってやっぱり強く掴む。
もうちゃんと見てるから意地悪はしないでとそうお願いしたら、ちゃんと見てくれる原田には別な意味で意地悪したいって、笹野くんはニヤリと笑った。
END
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