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「愛してる」の代わりに。(2)

   「たむ、ら、く……んっ、僕は、ね……」 “本当に好きだったんだよ” 最後のほうは小さく消えていきそうな声で、弱々しく呟いた吉永さんをさらに強く抱きしめた。 「分かってます、」 嫌と言うほどに分かっている。 貴方がどれだけ、あの恋人を愛していたか。 何度浮気されても、それでも大好きで。 何か良いことがある度に、笑顔で俺に報告してくれてたじゃあないですか。 吉永さん、俺はね。 そんな貴方をずっとそばで見ていたんだ。 貴方が彼を愛しているように、俺だって貴方を愛しているんですから。 何を思っているのか、知らなくて良いことまで分かるくらいには、貴方のそばにずっといたんですよ。 「吉永さん……」 (愛してるんだよ) 「吉永さ、ん、」 (貴方だけをずっと……) 言いたいけど、でも言えない。言うことは許されない。 こんなに弱っている貴方を、俺の勝手な気持ちで、さらに傷つけてしまいたくはないから。 何も考えず、俺の腕の中で泣けば良い。 唯一与えられることが許される、この温もりで、貴方を安心させることができるのなら、それだけで俺は。 色んな思いを抱え込み、胸が締めつけられてどうしようもなく痛いのを我慢して、言葉を飲み込んだ。 “俺だけは、何があったって” “貴方のそばにいる” 「吉永さん、」 彼に温もりだけじゃあなく、幸せを与えられることができれば良いのに。 “愛してる”の代わりに、俺は彼の左手の薬指にそっとキスを落とした。 “いつかー……” そんな叶わない夢を抱きながら。 END

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