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「愛してる」の代わりに。(1)
「……っ、あ、」
小さな肩を小刻みに震わせ、うずくまって泣く貴方。そんな貴方を、黙って見つめることしかできない無力な俺。
こうなることが分かっていた分、余計につらくて。
「吉永さん、」
手を引いて強引に抱き寄せれば、彼は俺の背中に手をゆっくりと回した。
彼にとってこれは、ただの慰めで何の意味もない。俺は彼にとっていつまでも必要な存在でありたいから、自分の気持ちを隠し、ずっとこうして吉永さんのそばにいる。
“あんな奴のことなんか忘れて”
“俺にしませんか?”
“貴方を愛してるんです”
“俺だったら、絶対に泣かせない”
さっきから頭の中をぐるぐると回っているのは、恋人が浮気をする度に泣いていた吉永さんに何度も言おうとしていた言葉ばかり。
けれど、振られた今でもなお、その恋人のために泣く吉永さんの心に俺なんかが入ることはできない。その言葉を言うのは、俺の役目じゃないから。
何度も振られる吉永さんを見てきた。その度にこうして慰めて。ただ黙って抱きしめることしかできないけれど、それで少しでも彼が落ち着くならと、そんな想いで。
いっそのこと気持ちを伝えてみようかと、それを思わなかったわけではない。
それでもやっぱり、俺には伝えることはできないんだ。
振られるのは、怖くはない。怖いのは、吉永さんが俺に気を遣うだろうってこと。
俺の気持ちを知ってしまえば、彼はこうやって俺のことを頼れなくなる。一人になってしまう。
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