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第5話

「おはようございます。」 収録当日。智紘がスタジオに着いたのは最後だった。彼以外のスタッフは全員揃っている。 もちろん、そこには共演者のあの男も。 「おはようございます、神田さん。」 「あぁ、おはよう。」 優斗が智紘に挨拶をし、智紘もそれを返した。 優斗は初めて会った時とは違い、眼鏡をかけていた。それは、優斗に襲われた日に持っていた伊達眼鏡を智紘があげたものだ。スクエア型の黒縁メガネは、驚くほど優斗に似合っていない。 けれど、優斗がそれを掛けるには理由があった 「ちゃんとそれ、掛けてきたんだな。」 「はい、神田さんの言いつけ通り。」 智紘が優斗の眼鏡を指さし、半笑いになりながらそう言った。しかし優斗は露ほどもそんな様子に気づかず、笑顔で智紘に返した。 収録中に優斗が役に乗せて智紘を襲う可能性が無いとは言い切れない。そこで智紘は収録前に渡した眼鏡を掛け、収録時に外すよう指示をした。無意識に役のスイッチが入らないようにと智紘が咄嗟に考えた案だ。 「2人共、準備はいい?収録始めるわ!」 音響監督の声に、2人はそちらに返事をする。先に智紘が部屋を出て、収録ブースに移動。その後に優斗が出て行く。伊達眼鏡を外しながら。 ◇◇◇ 収録は一発オッケーをもらい、予定よりも早く終わった 収録ブースが萌えで震えあがったことは、言うまでもない 「神田さん。」 「何だ?」 収録ブースから出ようとする智紘を、優斗は引き止めた。眼鏡をかけていない彼の顔を見て、智紘は密かに恐怖で身体を震わせる。 優斗は智紘の近くに寄り、耳元で囁いた後ブースを出て行った。 「あのやろ、調子に乗りやがって…。」 優斗に囁かれた耳を手で押さえながら、姿の見えなくなった彼に悪態を吐く。 智紘の顔はすっかり真っ赤になっていた。 耳の奥に残る、優斗の甘く低い囁き声と言葉を反芻して。 「好きです。再び共演した時は、俺と付き合ってください。」 『後輩が豹変しました』は、ドラマCDでより一層話題を呼び、後にアニメ化される。 キャストはドラマCDの続投で、2人は再会することになる。 その時に関係が劇的に変化することになるが、それはまた別のお話―

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