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バレンタイン編

「明日、 2月14日はチョコレート『など!』、全ての菓子類の、校内持ち込みを禁止する!」 全校生徒に言い渡された、生徒会長様の絶対命令。 厳格で少し自己中な俺様生徒会長は、時々こうして、全校生徒に問答無用の『絶対命令』を出す。 それが学校の行事や、勉学などに関係ある物だから、誰も文句は言わない。 いいや、言えないのだ。 けれど嫌われてはおらず、容姿端麗で成績優秀な会長様は、むしろ全校生徒の憧れの的である。 その会長様が今回の絶対命令を出した理由―― 「どうして菓子類の持ち込みを禁止したの?」 副会長の問い掛けに、会長はフンとそっぽを向く。 「好きな人から以外に、チョコなんかいらない」 これが本音である。 会長は去年、段ボール十箱分のチョコをもらい、食べきれずに処分しなければならなかった。 当然、生徒会メンバーもおこぼれに与ったが、とても間に合わない。 賞味期限に迫られながら、毎日チョコレートばかり食べるのは、確かにある種の恐怖だった。 「あれにはウンザリしたけど……僕からのチョコも、いらないんだ?」 副会長が意味深に微笑むと、急に会長は慌て出す。 「なっ!? ち、違う! お、お前のチョコなら、そのっ、も、もらってやっても、良いぞ……?」 分かりやすい。 けれど分かっていながら、副会長はさらにとぼけて首を傾げる。 「あれ……? でも、好きな人から以外、いらないんじゃなかったっけ?」 「だから、それは……」 面白いほどに狼狽する会長を眺め、副会長はニヤリと唇の端を引き上げた。 「チョコレートの持ち込みは禁止されたし――君は、何が欲しいの?」 「う、うぅ……」 追い詰められて唸る会長の頬を、副会長がそっと指先で撫でる。 「チョコより甘い物……キスとか、どう?」 副会長が頬に触れたまま、親指で会長の唇をなぞってやる。 瞬時に想像したらしく、会長の顔がボッと赤く染まった。 けれど素直に頷くのは、彼のプライドが許さないらしく、一瞬だけ悔しそうに唇を引き結んだ。 「し、仕方ないから、それで許してやる」 顔を背けて強がる姿は、それなりに可愛いが―― 「その前に、言う事があるんじゃないの……?」 この副会長が、それを許すはずが無い。 「なっ、何を……」 躊躇う会長に、副会長はクスクスと笑う。 「『好きな人から』しか、欲しくないんだよね? だったら、僕の事、どう思ってるの?」 「そ、それは……決まっているだろう!」 もちろん、聞きたい言葉は決まっている。 今日こそは、会長の口から言わせようと、決めていたのだ。 逃がしはしない。 「ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないよ? ……ほら、早く聞かせて?」 鼻先まで顔を近付けられ、ついに会長も観念したらしい。 「むぅ……す……好き……だぞ……」 蚊の鳴くような声で、やっと会長が囁いた。 しかし、それで満足する副会長ではない。 「え? 何? 良く聞こえないよ〜?」 聞こえているくせに〜と、地団駄を踏む会長を、副会長は人の悪い顔でニヤニヤと笑う。 ついに会長が喚いた。 「お、お前が好きだ!」 顔を真っ赤にして、少し唇を尖らせる会長。 「良くできました♪」 副会長は大満足と言う顔でにっこりと笑い、会長の頭をヨシヨシと撫でる。 「僕も、君が好きだよ。僕のお願いに、一生懸命に答えてくれるから……ご褒美……あげないとね?」 妖しく微笑む副会長に、会長様はゴクリと喉を鳴らした。 ……END.

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