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第7話

「は……?」 「おいしいからです。あまりにもあなたが。あなたの、血が」 「え……っ」  その言葉に、秘められた意味に気付いて、今度は朱島が赤面する番だった。 「おい……しい、って……」  そういえば、タイチは他人とは違う執着の仕方をすると言っていたことに思い当たった。このことだったのか、と朱島は納得した。 「つまり、そういうことです。それに、昭和公園で、あんなに気配を消してたのに、人混みであなただけが俺に気づいた」 「え」 「普段、話しかけても、どうしてか存在が周囲に溶けてしまって、なかなか応対してもらえないの、コンプレックスだったんです」  そうなのか……、と納得しそうになった朱島がタイチを見ると、彼もまた照れ臭そうな顔をしていた。 「あなたはその……おいしすぎて、中毒になりそうで、怖かった。もちろん、今の取引先との間を取り持ってくれた恩もありますし、これから一緒に事業をやっていく、パートナーになるだろうし、公私混同はしたくなかったというのもあります。あなたは気づいていないだろうけれど、ご友人と話していたのを見かけた時、俺、物凄く嫉妬しました。初めて、だったんです。こんなになるのが。別れ話なんかしたら、俺の方が未練タラタラで駄目になりそうだったし、物理的にあなたを傷つけることも、ちょっと……。恋人と、五文字で別れたと言う人に、恋をしてしまうのはまずいと……朱島さん?」  朱島は聞いているうちにたまらなくなり、この青年の背中を抱き締めた。そういえば、互いにデータは交換し合わなかったが、他愛のない自慢話はしたのを覚えていた。 「私もだ」  朱島もタイチと同じだった。タイチが消えてから、新しい恋人ひとり探すこともできず、タイチのことばかり気にかけていた。恋においてそうなることをどこかで恐れていたが、誤解を解いてみると、ばかみたいに思える。 「そうみたい、ですね……すみませんでした」  タイチが朱島の少し痩せた背中に両腕を回し、呟いた。 「あなたを放っておくなんて、二度としません。ごめんなさい」  その一言で、朱島は救われた気がした。震える指をひとつずつ解いて、タイチの前に立つと、朱島は自身の名刺を渡した。 「これで条件はフェアだ。そしてここからは、私のわがままなんだが……」  言いかけた朱島を制し、タイチが囁いた。 「俺と、付き合ってください、紅葉さん」  きっと幸せにします、と言うタイチに、朱島は違う、と主張した。 「ふたりで幸せになろう」  驚いた顔のタイチの唇に、朱島は触れるだけのキスをした。 「私には…きみだけだ」  きみしかいないんだ、と思った。 「私も、私の血も、私の傷も、きみのものだ」 =終=

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