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第1話
「あー、オッパイ揉みてー!」
夜のオフィスに一際大きく響き渡ったその声に、残っていた同僚達が一斉に手を止めた。
「出たよ。コッシーの雄叫び」
「坂田さんが残ってたらセクハラで訴えられるぞ」
「この際坂田さんでもいいから揉ませてくれねーかな」
坂田というのはパートで来ている五十を越えた事務員の名だ。
そして、まるでそこに胸があるかのような手つきで空気を掴む男は、入社して五年になる越塚という正社員で、黙っていればモテそうなのにといつも皆に言われている。
「ホント、お前残念な奴だよなぁ……その見た目なら、選び放題なのに」
「男がエロくて何が悪い! 俺はさ、オッパイが好きなんだ! 前らだってもそうだろ?」
「そりゃ好きだけど……普通叫ばねーだろ? そんなに揉みたきゃ彼女作ればいいだろうが」
先輩社員の一言に、皆が一様に深く頷く。
残業の度のこのやり取りに、うんざりしている綾人も一応話に合わせて頷いた。
「彼女……かぁ」
チラリとこちらに視線を送って薄い笑みを浮かべる彼に、綾人は慌てて視線を逸らすと入力を再開させる。
「もし彼女が出来たとして、揉める程無かったらどうすれば良いんですかね」
「お前、出来る前からそんな心配してんの?」
「ってか巨乳選べば良いんじゃない?」
真剣な声で話す越塚に、同僚たちが一同に笑った。
確かに、そこまで胸に固執するならば、最初から胸の大きな女性を選べば良いと綾人も思った。
「柏瀬はどう思う?」
「別に、風俗でも行けば」
名指しで話し掛けられても、視線を向けてなんてやらない。
この話になる都度毎回、綾人は泣きたい気持ちになるのだ。
――だったら、なんで?
キーボードを打つ指先に、自然と力が籠ってしまう。
「ダメだよ、柏瀬は真面目なんだから」
「きっとムッツリだな」
茶々を入れる社員の言葉に耳の辺りが熱くなった。
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