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第2話

 柏瀬綾人も越塚と同じく入社五年目の正社員だが、専門卒で入ったから、四大卒の彼より二歳年下だ。  だからなのか、生まれもった性格なのかは分からないが、いつも綾人を弄る越塚が最初はとても苦手だった。  ――意地悪。  だけど……彼と一緒に仕事をする内、さりげない優しさに触れ、いつの間にか憎めなくなり、最終的に綾人は越塚に想いを寄せるようになった。  ――馬鹿だ。  巨乳好きを公言して憚らない彼だから、自分なんかじゃ一生相手にしてもらえないと分かっていた。  しかも、男同士だ。  どう考えても上手くいく筈なんてない。 「じゃ、お先」 「お疲れさまでした」  同僚達が次々に職場を後にするが、今日の仕事はややこしく、もう少し掛かりそうだった。  ――やばい。  早くしなければ最後の一人になってしまう。それは全く構わないが、下手をすると越塚と二人になってしまうと思った綾人は懸命に仕事をするが、結局なかなか終わらない。  ――仕方ないから家でやろう。 「綾人、終わったの?」 「ひっ!」  パソコンをシャットダウンした綾人の耳のすぐ傍で、低く囁く声がしたから、思わず上げた小さな悲鳴がオフィスの中に響き渡った。 「かわいい。ビクってした」 「止めろ」  慌てて周囲を見渡すと、みんな帰ってしまったらしく人の姿は見当たらない。 「待ってたんだからありがとうだろ?」 「んっ、やめっ」  耳朶に軽く歯を立てられて堪らず綾人が突き放すと、喉で笑った越塚智(さとし)は口許だけでニヤリと笑った。 「そんな事していいんだっけ」 「……良くない。けど……」  チラリと横に視線を送ると、先程までの人当たりの良い爽やかな表情は既に影を潜め、口端だけで器用に笑う整った顔がそこにある。 「落ち込んだ?」  頬に唇をくっつけながら意地悪な言葉を紡ぐ彼を、引き剥がすだけの意思を持てたらどんなに楽かと綾人は思った。 「別に……」 「そっか。じゃあ、見せて」 「やっ……やめろ!」  スーツの襟の部分に掌を差しこまれ、驚いた綾人は思わパシリとそれを振り払う。 「あれ? 良いのかな?」 意地悪な声。 どんな表情をしているかなんて、見なくたって想像できる。 「……分かった。でも、ここじゃ嫌だ。それに……トイレ行きたい」 「しょうがないな……いいよ、行ってきて」 咄嗟に吐いた嘘だけれど、今の状態で脱がされたら……更に馬鹿にされてしまう。

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