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第3話
そんな気持ちを知ってか知らずか、珍しく直ぐに了承した智の気持ちが変わらない内に、綾人は急いで席を立つと、足早にトイレへと向かった。
現状、智と綾人はセフレよりまだ遠い存在で、これから先もこれ以上の進展は無いと分かっている。
珍しく泥酔した飲み会の帰り道、勢い任せに好きだと告げてしまったのが……この関係の始まりだった。
『気持ち悪い事言うなよ』
智の放ったその一言で酔いは一気に冷めたけど、『ごめん忘れて』と言った時には、既にもう手遅れだった。
『へえ、柏瀬ってホモだったんだ……職場に知れたらみんなどう思うかな?』
明らかな彼の脅迫に、屈したのが一ヶ月ほど前の出来事で、以来時折呼び出されては屈辱的な行為を彼に強いられている。
「……うっ」
トイレの個室に入った綾人はネクタイを少し弛めた後、シャツのボタンを数個外して前の部分を大きく開いた。
――あんなヤツだって知ってれば……。
好きになんてならなかったと綾人は心で悪態を吐くが、突然ホモから告白されたら、ノンケの男はきっと誰でも気持ち悪いと思うだろう。
――智は……悪くない。
あんな事があった後も、仕事では一切態度を変えたりしない。
だから綾人も彼の事を嫌いになんてなれなかった。
「いっ……」
自らの胸に指を伸ばし、乳首の根元を戒めている糸を解こうと試みるが、きつく縛ってしまった為に結び目がなかなか緩まない。
――何で、こんな事……。
今日に限ってしてしまったのだろう。
滑稽な姿を見下ろし泣きたい気持ちで一杯になるが、のんびりしている暇はないから、どうにか糸を切ろうと思って綾人は根元を引っ掻いた。
「くっ……うぅっ」
少し切れてしまったようで、根元の辺りが痛痒い。
どうしてこんなにバカな事をしてしまったのか……と、自分自身を詰(なじ)りながら、必死に糸を解(ほど)こうとして固い結び目に爪を立てる。
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