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第10話
それから少ししたら部屋に来訪者。
扉が開けるともう私服になった天華くんと…
「お久しぶりです…」
「君は…」
「本日のメニューはいかがでしたか?」
「料理長の樋浦です。」
「君が…あの子」
とても立派になってた。あの頃の気の強そうな眼差しはそのままに大人になってた。
「あのときは止めてくれてありがとうございました。」
「随分前のことなのにそんな」
「いえ…俺…あいつを止めることできなくて…あの後色々あったんですけど…良かったです。本当にありがとうございました」
「わざわざありがとうございます。今日の夕飯美味しかったです」
「お口に合って良かったです。天華のことよろしくお願いします。天華から聞いてます?俺の初恋あなただったって」
「初恋だったの?」
「あれ?一目惚れだったってお前には言ったよな」
「聞いてたけどまさか初恋なんて」
「だってすげー美人だったし」
「確かにね。」
「でも安心してくださいね。俺には今はもう家庭がある。だから貴方をどうこうしようなんて思ってないので。天華はお調子者でたまに抜けてたりするけど良い奴なんでよろしくお願いしますね」
爽やかに笑った彼は再度深くお辞儀をして去っていった
「すいません!遅くなっちゃって」
彼の姿が見えなくなるとガバリと頭を下げる天華くんに苦笑して
「いいよ。仕事だもんね。ありがとう。頑張ってくれて」
「…はぁ…たまんない…可愛い」
「可愛い?俺が?」
自分が何者か明かしてからなんだか天華くんは変だ
「気を悪くしたならすいません」
「言われなれないからなんかくすぐったいだけだよ」
「こんなに可愛いのに本当に彼女いなかったの?」
「いないって。天華くんはいたんでしょ?だったらわざわざ俺にしなくてもいいんじゃない?」
「…確かにいましたよ。でも言ったじゃないですか。見て呉れと俺の名前にしか興味がない人しかいなかったって。告白されてすげー最低ですけど断るのも面倒で付き合ってみたりした。けど結局思ってたのと違うってふられるのが常です。」
天華くんはこの旅館の跡継ぎだ。だからきっと後世にここを繋げていかなければならない。
だから男の俺ではダメだ。だから俺を好きだと言うその時間が無駄だと思う。
そのうちこの旅館に見合ったお嫁さんをとって一緒にこの旅館を守っていかなければならない…そのうち捨てられるのならば俺の気持ちはどうしたら良いのかわからなくなる。
俺も人並みに恋できる日が来るのかもしれない。でも…これまで誰にも心をときめかせたことなんて無かった…初めて覚えたこの胸の高鳴り甘い痛みは捨てられた後どこにいくんだろう?
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