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第186話

「千隼、桜人はまだ寝てるのかい?」 「これから起こして来ます」 「ありがとう。じゃ、行ってくるよ」 ケントさんが出勤のために家を出る時間、桜人はまだベッドにいる。 桜人は寝起きがすこぶる悪く、なかなかベッドから起きだせない。 「千隼は今日誕生日だね」 「はい」 「おめでとう。早く帰るから」 いつものように微笑みを残してケントさんはドアを閉めた。 見送った後、急いで階段を上がる。 手前から二番目の部屋にノックも無しで入り、カーテンを開けた。 「おーと」 「んん.......」 太陽光が桜人を照らしだし、それから逃げるように桜人は布団に潜る。 「起きて。ケントさん、出かけたよ」 「…ん…」 「桜人、早くご飯食べよう」 ベッドの端に腰掛けて はみ出た髪を指で弄びながら梳いた。 「ん…ん!ちーや!今日!」 ガバッと布団を捲って顔を見せた桜人。 「誕生日おめでとう!」 「ありがとう」 「僕、最初に言えた?」 褒めて、と言わんばかりに瞳を輝かせる桜人。 「ケントさんが最初」 「なーんだ。早起きすれば良かったな」 残念そうな素振りを見せ、桜人がベッドから降りた。 「今日、父さん達帰って来るんでしょ?」 「うん」 「十六歳の誕生日、父さん達の時は盛大にパーティしたって言ってた」 「そうらしいね」 「そこで母さんに会ったって」 「…うん」 十六歳の誕生日に許嫁を紹介するしきたりがあったって言ってた。 「やらないって事は…僕にもチャンスが有るって意味かな?」 「…え?」 「僕は、ね。諦めたから何もしないんじゃないよ?諦めてないからしないんだ」 桜人の目が強い意志を訴える。 「千隼。今日から、本気を見せるから覚悟して」 サラサラの髪、まあるい目、白いほっぺ、ピンク色のおくち。 昔、僕がそう称した男の子は、今、僕の目の前で大人の男に変わった、ように見えた.......。 ー終ー

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