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第1話

『……っ!』 『なんだ、こっちは初めてかよ。兄さんが犬って言うからてっきりこういう意味かと思ってたけど……悪い、勘違いしてたみたいだ』  毛足の長い絨毯の上へ倒れた体に覆い被さり、むき出しにされた下半身へと触れた男の放った言葉に、これで悪夢のような時間は終わるのだと……(たすく)は微かな希望を抱いた。彼の誤解が解けたのなら、きっと解放されるはずだ。  抗ったせいで暴力を受けた体中が鈍く痛む。逃げたくても部屋の外へは(あるじ)の許可がなければ出られず、止めて欲しいと訴えようにも、話すことは禁じられていた。 『ほっそい体。胸のない女みたいだ。けど、ここまでされて声も出さないんだから、案外気合い入ってんな。そんなに兄さんのことが好き?』 『……ッ』  両脚を大きく割り開かれ、佑は体を震わせる。射抜くような彼の眼光が心の底から怖かった。  どうしてこんなに酷い仕打ちを受けているのか?  佑には理解できていない。助けを乞いたいたった一人の存在は、仕事のために二週間ほど留守にすると言い残し、出掛けてしまったばかりだから突然襲った嵐のようなこの状況に、佑は為す術もなかった。 『勘違いついでに、兄さんより先にお前を使ってやるよ。お前ホモなんだろ? セックスもして貰えないんじゃ相当溜まってんじゃねーの?』  思いも寄らない彼の言葉に、佑は必死に首を振る。そんなことなど望んでいないし、例え望んでいたとしても、その相手は彼じゃない。 『俺は、兄さんと違ってどっちもイケるから、無駄に暴れなきゃ気持ち悦くしてやるよ』  頬をバシリと平手で叩かれ、鈍い痛みに呻きながらも逃げなければと佑は思った。 『だーかーらー。無駄だって何回言えば――』  ――夢、これは……夢だ。  切れ切れになった映像に、ここでようやく佑はこれが夢であることを理解する。このあと佑は彼に引き摺られ、バスルームでアナルの中をさんざん洗浄されたあと、ついには彼の猛ったペニスで初めてそこを犯された。  ――どう……して?  いくら願っても止まぬ映像に、佑は泣きたい気持ちになる。見たくもないのにこの情景はたびたび夢に現れて……その都度佑の心の中を執拗に蝕んだ。  ――たすけ……て。 「……すく、佑」  心の中で助けを呼ぶと、自分の名を呼ぶよく知る声が、どこか遠くから聞こえてくる。体を軽く揺さぶられ、ここでようやく佑の意識は現実へと引き戻された。 「目が覚めたか? だいぶうなされていたようだが、また悪い夢を見たのか?」  開いた瞼の向こう側、大好きな主の顔が見えたから、安堵した佑は首を横へと振り、同じベッドで眠る主へ細い体を擦り寄せる。 「甘えてるのか? 可愛いな」  すると、笑うような気配がしたあと、大きな掌が頬へ触れ、それから佑の長い髪の毛を愛でるように優しく梳いた。 「まだ早い。寝ていろ」  耳を弄ぶ長い指先に佑は首を竦めるが、心地よい彼の腕に包まれて、数分後には再び深い眠りの中へと落ちてしまう。 「……おやすみ」  意識が完全に途切れる寸前、鼓膜を揺らした主の声にはある種の苦味が含まれていたが、安心しきっている佑には感じ取ることができなかった。

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