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第1話

とうとうやってきてしまったこの季節。 魔の、12月。 「はー…」 カレンダーを睨む逢坂。 逢阪は自動車販売店の整備士。冬のこの時期になると整備士たちは溜息をつく。 寒い上に、降雪予報が出てしまうとタイヤ交換でてんやわんやだ。 早目にお客がタイヤ交換を予約してくれれば良いのだが、そううまくいかない。 それと逢阪にはもう一つ、大きな悩みがある。クリスマスだ。 整備士として三年目。逢阪祐希(おうさかゆうき)の「彼氏」は二歳年上の浅倉遼(あさくらりょう)。同じ店舗で勤務している自動車販売店の店長だ。 初めは何かと自分に冷たく当たっていた浅倉に対して、逢阪は好意など持っていなかった。 しかしある日浅倉が自分達の仕事を進めやすいように裏で色々調整してくれていたことに気づき、そこから見る目が変わっていった。 それだけであれば部下と上司の関係のままだが、ある日会社の飲み会で逢阪が飲み過ぎてしまい、浅倉の部屋で介抱され、その時にお互いの気持ちを確かめ合った。 浅倉は、逢阪を気に入っていて「わざと冷たく」当たっていたという。 つい先日まで部下と上司だった関係は、たった1日で恋人関係になったのだ。 もっとも浅倉は密かに入社時から逢阪を気に入っていたのだが。 明るくて天真爛漫、とよく人から言われる逢阪に対して、浅倉は基本的にクールな店長だった。それでも店内の営業フタッフと整備士が浅倉を店長として慕っているのはその顔に下にある優しさに触れ、また信頼しているからだろう。 また、浅倉は前任の店長のときに赤字店舗だったこの店を見事に売り上げ一番の店舗に変えた。これは浅倉の手腕によるものだった。しかし奢ることなくひたすらみんなのお陰だ、自分は背中を押しただけだと言い放っている。 人の前では決して自分の内面を見せずいつも気を張っている浅倉。 そんな浅倉が唯一、気を抜いて過ごせる場所。それが逢阪の側だ。 今年のクリスマスが二人にとっての初めての「イベント」だ。まだお互いの「イベント」に対する温度感が掴めていない。 逢阪自身は思い切り楽しむタイプ。実際、元カノとは旅行に行ってクリスマス限定イルミネーションを観に行った。 だが、浅倉はどうだろう。イベントが好きなのだろうか。ましてや男同士でそんなにキャッキャするものだろうか。 相手が女の子なら分かりやすいのに。 「土井ちゃん、クリスマス近いね!どこ行く〜?」 ふいに背後から田城(たしろ)の声が聞こえた。営業の田城は目の前で電卓を叩く事務員の土井と先月から付き合い始めていた。 美人の部類に入るであろう土井は眉間にしわを作りながら田城を軽く睨んでいた。 「あのさ、クリスマスまであと20日以上あるの。そんなに浮かれなくても。私はその後のイベントもあるし、かまってられないわよ」 「えー」 このカップルはどうやら温度感の差がありありのようだ。ただ田城は惚れた弱みだろうか、その後強く言えずに退散してしまう。 男女のカップルでもうまくいかないか、と逢阪はため息をついた。

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