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◇
「また考え事? 何を考えているの?」
「お前のこと」
「え? また?」
「いつでも国博のことを考えてる」
朝から愛してもらった後、キッチンでコーヒーを淹れてくれている彼の背に抱きつきながらお決まりの会話をした。同じ大学に進み、同じ家に住み始めてもう三年経つけれど俺はあの時のことを未だに忘れられない。無理矢理襲われた恐怖はきっとこれからも消えないけれど、彼のおかげで思い出してもパニックになることはなくなった。
けれどその愛情について考えた時に、番になる選択が正しかったのか分からなくなる。俺はずっと彼が好きだったから、結果論で言えばどんな状況だったにしろ、この生活は俺が勝手に思い描いていた未来そのものだけれど……、彼はどうだろう。
今は表情でも言動でも俺のことを好きだと言ってくれているけれど、元はきっと罪悪感や責任感から。あんなことがなければこうして二人で生活することはなかったし、彼も心から好きになった人と番になれたはずだ。
「なぁ朝陽」
「ん?」
「そんなにずっと俺のことを考えるほど好きになってくれたのなら、本当のことを言っても許してもらえるかな?」
「え?」
「……あの時、お前を守りたいと言ったのは本心だけど、でも本当は朝陽のことが好きで、お前の傷に付け込んでまで手に入れたかった」
カップを台所に置き、彼はくるりと俺の方を向いた。
「お前のことを強引に番にして、守るなんて都合の良いことを言って、勝手なことをしてしまったから。朝陽の人生の全てを俺が滅茶苦茶にしてしまったってそれが気がかりだった」
「国博……」
「今更何を言っても遅すぎるのは分かっているし、こんな勝手なことをして許してほしいだなんて言える立場ではないよな……。ごめん」
本当の気持ちを話してくれた彼の目には涙が浮かんでいた。その涙に何を言われたのか少しずつ理解ができた俺は思いっきり彼に抱きついた。
「俺はお前が守るって言ってくれた時、罪悪感でそうさせたんだと思ってた」
「朝陽……?」
「俺はずっと国博が好きだったから、番になれて今こうして過ごしていることをとても嬉しく思う反面、お前が犠牲にしたものを考えると苦しくてたまらなかった。後悔していないかな? って気がかりだった。好きって言われる時だけ、この罪悪感が薄くなって、息ができていたの。……一緒だったんだね」
同じように泣きながら彼にそう伝えると、少しの間があいて、彼は力が抜けたように座り込んでしまった。抱きついていた俺も隣に座り込み、彼の肩へと体を預けた。
「……好きでいてくれてたんだ」
「うん」
「そっか、朝陽も俺のこと……」
そっか、そっか、とそれ以外何も言えないみたいに彼はそう何度も口にした。噛みしめるように吐き出されるその言葉に俺も何度も頷いた。
「今日は結婚記念日だね。本当の番になれた日」
「結婚記念日?」
「ふふっ、そうしようよ。なぁ国博、これからもよろしくな」
二人でいられる穏やかな休日がたまらなく好きだった。けれど今日もっと好きになった。彼も俺も息ができる。今日、本当の番になれた。
END
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