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「ごめん……、俺が」 「国博は悪くないよ、ごめん……」 恥ずかしいし申し訳なくてたまらない。こんな状況を見られたのも、彼に罪悪感を持たせてしまったことも、怪我をさせてしまったこともどうしたらいいのか分からない。 「朝陽……」 「見な……いで、お願い、」 顔を上げられずにそう言うことしかできない俺に、近づいてきた国博は躊躇うことなく触れた。俺の顔を無理矢理上げ、自分の制服の裾で汚れた俺の顔を拭いてくれる。 「ごめんな……、ごめん」 「だからっ、国博は、悪くないって……」 「でも俺が待ってって言わなければ、」 あぁ、そんな顔をしないでよ。 ボロボロと泣いている俺と変わらないくらいに彼も泣いている。傷口の上を涙が伝い、血と一緒に流れ落ちた。 「とりあえず、トイレで顔を洗って、家に帰ろう。お前が落ち着けるところに行こう?」 ぎゅうっと潰れてしまいそうなほどに強く抱きしめられ、その温かさに苦しくなった。 それから四日後、彼が俺の部屋にやってきた。俺はやっぱり発情期だったらしくその日も部屋に閉じこもっていたし、母さんが誰も部屋に入れないようにしてくれていたはずなのに。匂いの充満したこの部屋でどうして? と、無意味なことだろうに布団をすっぽりと被り、できるだけ彼に迷惑がかからないようにして話を聞くことにした。頼むから今は短い時間で出て行ってもらうことを優先すべきだろう。 「本当はすぐにでも来たかったけれど、窓ガラスを割ったせいで三日間家を出られなくて」 「……っ、」 「あのな、俺、考えたんだけど」 ギシリと音がして、ベッドが沈んだ。驚いて布団から顔を出せば彼は俺に覆い被さるようにして俺を見ていた。 「国博っ、お前何して、」 「朝陽」 「なぁ、俺が発情期って分かってるだろ……?」 「発情期じゃあないと意味がないから来たんだよ」 温かな彼の手が優しく俺の頬に触れる。数日経ったのに頬の傷跡は残ったままでそれを見つけて動けなくなった俺を、彼はまたあの時みたいに強く抱きしめた。 「発情期中のオメガのうなじをアルファが噛んだら、番になれるんだって。そうしたらもうこのフェロモンに他のアルファが反応することはなくなるって」 「国博……?」  「お前のことを守りたいよ」 「何言って、」 「俺じゃあ駄目か……?」 抱きしめていた手は俺の後ろ髪に優しく触れると、髪をかきあげ、指先でうなじに触れた。 「俺と番は嫌?」 「嫌とかそんな話じゃあないだろ……?」 「お前が嫌じゃあないなら、俺はお前と番になりたい。どうしても嫌なら俺を突き放して」 彼が俺に触れるのをやめた。今強く胸を押せば簡単に突き飛ばせる。嫌だと彼に示すことができる。そうすべきだと思わなければいけないのに、冷静な判断ができるはずもない。今は発情期で、目の前には好きな人がいるのだ。すぐそばで温もりを感じられる。それを、どうして拒否することができる? 「今は理性がどこかに行ってるの。ちゃんと考えられない」 「でもそれって本能は良いって言ってるってことだろう?」 「国博っ、」 「お願い、俺に守らせてよ」 咄嗟に逃げようとした俺の手は彼に掴まれ、身動きが取れなくなった俺のうなじに、彼は思いっきり噛みついた。

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