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第1話
「………つまりは、おまえがしたこと全部、番のαのせいだって言いたいんだな?」
「………違います」
堂々巡りのこの会話に呆れて、俺は大きくため息を吐いた。
俺は貝塚 剛 。
35歳のα、刑事課の巡査部長だ。
現在、取り調べ室では、強盗の容疑をかけられた一人の男のΩが事情聴取されていた。
彼の名前は荒川 みくり。
26歳、無職。
割と高価だと言われている発情期を抑えるための抑制剤、彼はそれを長期間に渡って10万円分は盗んでいたという疑いがかかっており、今回万引きがバレて咄嗟に小刀を振り回したのが刑事課に回された原因だ。
事情を聞くと、どうやら荒川は21歳の大学時代に、当時付き合っていた男と番関係を結んだらしい。
しかし大学を卒業したその日、同棲していたはずの男は忽然と姿を消したそうだ。
それも部屋にあった金目のものは全て無くなっていたらしく、何か事件があったのかと男の身を案じながら、荒川は5年たった今でもその男の帰りを待っているようだ。
正直、金蔓 にされて逃げられたとしか考えようがない。
それでも荒川は、その男を盲目に愛し、何度も訪れる発情期を抑制剤で抑えながら今まで過ごしてきたようだ。
もちろん番のαと体を交えていないために心身はボロボロで、なんとか内定をもらった職場にも解雇され、貯金も全て使い切って抑制剤が買えなくなった荒川はとうとう万引きという手段に出たというわけである。
「にしてもだなぁ、10万はやりすぎだろ…」
もはや黙りを貫く彼に手の施しようがなく、一服しようと部屋を出た。
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