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アレキサンドライト・ロング・デイ【イエローサイド】──16
帰りの自動販売機で温かいホットレモンを買った俺達は、バータイプのガードレールに寄りかかっている。シロちゃんは落ち着いてきたか、鼻はまだ啜っているが泣き止んでいた。
…………はいはいはいはい、非常に困りましたよ。あのくそ野郎、タイミング良く家に来てんじゃねーよ! しかも飲みの後とか最悪だ。ちゃんと返信しなかった俺も悪いが、くそ! 気づけよ! ばれたら今日の努力は無駄だが気づけよ! ってそうじゃなくて、シロちゃん大丈夫か?
隣に腰かけるシロちゃんは俯いたまま一向に喋らない。何を喋っていいかというのもあるか、と俺から切り出そうとした。だがどう切り出していいものやらと天を仰ぐ。明日も晴天か、星が煩いほど出ていた。
「……あーの、な?」
シロちゃんがこっちを向いた。向きにくい俺は目だけをよこす。
「お前は知ってると思うが……あれ、ヘースケの担当の人」
「……はい。家政夫の仕事、紹介してもらいましたから」
そうだった、と息をつく。じゃあ顔見知りだしそういう事もあるとわかってくれるか──わかってくれなかった。
「ユーキさんは、ヘースケさんを好きだったんじゃないんですか?」
「は?」
「だって、あまりにも早過ぎるっていうか」
青臭ぇ! と叫びたかったが今は深夜。どう説明していいものやら。
「……早い遅いは関係ねぇの。それにあいつにはお前がいるからいいんだよ。俺はこの位置で満足してる」
今までの友達の位置でヘースケを──ヘースケとシロちゃんを見るので満足なんだ。これは嘘じゃない。心からじゃないと、シロちゃんを庇ったり助けたりなんかしないし、出来ない。
「……へへ」
なんだその笑い。あんまり可愛いもんだから頭を撫でてやる。弟とかいたらこんな感じかもと思った。柄じゃないと言われそうだけれど──。
「──でもユーキさんがおじさんと、って驚きました」
おじさんって。まぁ十九からしたら三十……二、だっけか。おじさん呼びもまぁ納得。
「ヘースケには言わないどいて」
「あ……はい。ユーキさんが知ってればいいんですもんね。俺は知っちゃいましたけど」
生意気に昼間言ったまんまを返してきた。しかしそういう事だ。知ってほしかったら自分で言う。まだ俺はそういう時じゃないから、だから、いつか、と思っている。
「大人はな、色々あんの」
「そうみたい、ですね」
「そー。お前はのびのびやりなさいよ」
「未成年でも色々あるんです」
「背伸びし過ぎんなって事」
たかが十九、こっちは八つも上の二十七。大人としてのアドバイスなんてたかが知れてるが、シロちゃんはシロちゃんらしくいてほしい。
「でもそっかー……ユーキさんがおじさんと……」
「なんだよ」
「いえ、だってあのおじさんですよ?」
「そりゃお前から見りゃおっさんだけど──」
「──あっ、そっか! あっ、やっぱ何でもないですっ!」
ん?
誤魔化すシロちゃんだがもう遅い。俺は顔を近づけて吐けと圧をかける。
「うー……その、だからおじさんなんです、俺の」
「は? お前のって、元彼?」
「違いますよ! 冗談じゃないです嫌ですあんな人無理!」
おーおー、ひでぇ言われようだ。
そしてシロちゃんが白状した。
「──叔父、なんです。母の弟、で」
「…………あ?」
「血縁者なんですぅ……っ」
そろそろ俺の身体の腰が折れそうなくらいに詰め寄っているが、俺は動けないでいた。
なーるほど……それでおじさんおじさん言ってたわけですかー……ほぅ、なるほどなるほど。
「…………あん!?」
「しーっ、しーっ! 深夜っ──づぁっ!?」
「だぁ!?」
と、腰が耐えきれなかったシロちゃんが思いっきり戻ったせいで、額と額が、ごちっ! と当たった。その頭突きは思いのほか重いもので、俺達は衝撃のまま離れてその場にしゃがみ込んだのだった。
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