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第72話

「樹さん……すき、すきだよ……」  必死で抱きついて愛を求める優志を愛しそうに見つめ、樹は求めたもの以上の愛をくれる。  何度も放った精で濡れる秘所は、ぐちょぐちょと卑猥な水音を立て続ける。緩急を付けたピストンを繰り返され、優志の口からは嬌声が途切れる事はない。   頭の中も体の中も樹で満たされる。体の奥で感じる樹の熱が嬉しくて、もっと樹を感じたくて、もっともっと樹に快楽を与えたくて、優志は腰を懸命に振った。 「……無理、してないか……?」 「ん、だいじょうぶ、気持ちいい……すごく、気持ちいいの、樹さん……樹さんは……気持ち、いい……?」 「あぁ……良すぎて止まんないよ」 「はぁぁ、んん……!」  久しぶりだから、というだけではなく初夜という事で優志も樹の体も何時も以上に昂ぶっている。何度も絶頂を迎えても、欲望が果てる事はなく求め合った。  強く扱かれた優志の雄芯から、そして体の奥深くに埋められた愛しい樹の分身からどくどくと注がれる淫液は回数の分だけ少なくなってはいた。だけど、まだ足りないとばかりに二人は抱き合った。 「……樹さん……あぁ……もっと……」 「優志……」  体を入れ替え、正面から、背後からと何度も何度も貫かれた。回数など分からない位に達し、樹のもので満たされた体は心地よい倦怠感に支配される。  汗と精液でべとついた体で抱き合い、まだ荒い息を整えるように二人は深く息を吐き出した。 「大丈夫か……?」 「うん……」  照れくさくて、でも幸せすぎてつい笑みが零れてしまう。緩んだ頬のまま樹を見れば、恋人も同じような表情だ。 「……どうしよ、オレ、今日はホント幸せすぎる……オレね、目標があったんだ……夢っていってもいいのかな……」 「目標?どんな?」 「……うん……樹さんが書いたものをいつか演じられたらって……ずっと思ってた……」 「オレもだよ、オレの作り出したものをお前が演じてくれたらって思ってたから……だから書いたんだよ」 「……それは……」  さっきまでの幸せそうな顔から一転、真剣な表情を作る。優志は震えそうになる声を絞るように、問いを投げかけた。 「それは……オレだから……?恋人のオレに……?それとも」 「オレは江戸川優志という役者にあの役を演じて貰いたいんだよ」 「……樹さん……」 「お前が恋人じゃなくたって、オレがお前を好きじゃなくたって、アレを書いたら演じられるのはお前しかいないよ、前に言っただろ、自分じゃなければダメなんだって言ってもらえるような役者になるって……」 「うん……」 「こう言ったらお前はどう思うか分からないけれど……今の、まだ荒削りの……成長途中のお前に演じてほしいんだ……アレは今のお前にやってほしくて書いた話だからな」 「……うん……なんか緊張してきた」 「はは、そうか?」 「そうだよ、責任重大だ、失敗出来ないじゃん……」 「……いいんだよ、失敗しても、何度もやり直してお前が納得したものを作ればいい……お前が失敗したと思えば、オレも多分そう思うだろうからな、妥協するつもりはないからな、オレは」 「オレだって妥協したくないよ」 「それでいいんだ」  自分がまだ樹の隣りに立てる人間だとは思えない、だけど、近付く事は出来るから。いつか隣を並んで歩くのに遜色ない人間になるから。  だからそれまで待って欲しい。だからそれまで、見守って欲しい、自分の成長を。 「樹さん……これからもよろしくね……」 「あぁ、末永く、な」 「うん……」  今日一番の笑顔で答え、ありったけの想いを言葉に乗せた。それはずっとずっと胸に秘めてきた想い、ずっとずっと隠し続けてきた願いだった。 「樹さん……ずっと側にいて、ずっと……オレを、オレだけを愛して下さい」 「優志」  唇が重なり、何度目か分からないキスを交わす。きつく抱きしめられ、耳に届いたのは照れたような樹の声音。  だが、しっかりとしたその答えを優志は生涯忘れないと思った。 「愛してる、優志、お前もずっと側にいて、オレを愛してくれ」 「……うん」  背中に回した腕に力を込め抱き合った。ドキドキと高鳴っていた心臓はゆっくり平常に戻り、密着していた熱は心地よいまどろみを産む。  抱きしめられた腕の中、優志は瞼を閉じ樹の胸に頬を擦りつけた。  優しく頭を撫でられた手の感触が眠気を誘い、優志の意識はミルク色に染まる。 「……愛してる……」  少しだけ照れたような声がもう一度優志の耳に届いた。答えたいのに、睡魔の抱擁には勝てず意識が白濁に濁る。 「いつきさん……」  唇は動いても瞼が開く事はなかった。最後に「好き」と唇は形を作り、そのまま幸せそうな笑みが浮かぶ。  想いを反映させるように、抱きしめた腕はそのままに、優志は優しい眠りの世界に落ちていった。

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