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Pro. 全ての終わり、あるいは始まり

 雪ヶ丘(ゆきがおか)の伝説、知ってるッスか?  なんの変哲もない、面白い遊具があるワケでもない、ただの小高い丘なんスけど、そこには地元の人間には割と有名な伝説があるんス。  その丘で一緒に雪を見たカップルは、未来永劫、ずーっとずーっと一緒に居られるっていう、おまじないみたいな伝説が。  だからオレは、梓紗(あずさ)と一緒に雪を見るなら、絶対ココだと思っていた。  そんなオレの期待に応えるように、雪がふわふわと舞い降りてくる。 「ほら、梓紗。雪が降ってるッスよ」 「……これが、雪?」  オレの膝を枕代わりに横たわっていた梓紗は、ぼんやりと目を開いて、空を見つめた。その後小さく首を振ると、同じようにぼんやりとオレを見る。 「夏樹(なつき)が教えてくれたでしょう? 雪は白くて冷たいものだって。これは白くないし、ちっとも冷たくない。赤く染色された綿なんじゃないの?」  梓紗が怠そうに持ち上げた手に雪は落ちて、あっという間に溶けてしまう。梓紗の手の中で赤色をした水滴ができた。  その様子をぼんやりと見つめて、梓紗は無邪気に笑った。 「でも凄いね。雪が見られなかったのは残念だけど、外では綿が降る事もあるんだ。面白い」  くすくすと笑う梓紗の頭をそっと撫でて、オレは笑った。頬を水が伝う感触がしたけど、上手く笑えてるッスかね? 少なくとも梓紗の目に、オレの笑顔が映っていれば良いんだけど。 「……うん、そうなんスよ。外の世界はもっともっと、面白いもので溢れているんス。だからこれから、もっともっと、いろんなものを一緒に見ようね、梓紗。今度こそ雪も一緒に見よう」 「うん、約束」  そっと笑って目を閉じた梓紗に、梓紗を抱えるオレに、雪はふわりふわりと舞い降りて、あたりを白に染めていく。でも、梓紗とオレの近くだけは赤色に。  雪ヶ丘で一緒に雪を見た恋人同士は、未来永劫、ずっとずっと、一緒に居られる。  梓紗にとってこの雪は綿だった。じゃあ、オレ達は未来永劫、一緒に居られないんスかね?  穏やかな梓紗の寝顔を、涙で滲む視界に捉えながら、オレはずっと梓紗の頭を撫で続けた。もう嬉しそうに笑ってくれない事は、よく分かっているんスけど。

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