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Epi. 全ての終わり。或いは始まり?

 オレを貫く筈だった銃弾が大切な御子息サマに被弾してしまった動揺は、追っ手達を動揺させて追跡の手を緩めるのに十分だった。  梓紗(あずさ)の怪我で逃げやすくなるなんて、なんて皮肉ッスか。内心で毒吐かずにいられない。梓紗を笑顔にさせたかったのに、殺される覚悟はしていたのに、結局梓紗に庇われている自分も許せない。  それでも今は梓紗の願いを叶えようと、冷たくなっていく体をお姫様抱っこにして、雪ヶ丘(ゆきがおか)への道を歩く。  梓紗はすっかり荒くなった呼吸で、だけど雪を楽しみにしているのか、小さく鼻歌さえ歌っていた。 「……あ」  雪ヶ丘に着いた時、まるでオレ達を待っていてくれたかのように、空からふわりふわりと雪が舞い降りる。  オレはそっと腰を下ろして、オレの膝を枕代わりに梓紗を横にならせた。男の膝枕なんて寝心地悪いだろうけど、そうも言っていられない状態だし勘弁願うッス。 「ほら、梓紗。雪が降ってるッスよ」 「……これが、雪?」  何時の間にか閉じてしまっていたらしい目をぼんやりと開いて、空を見つめた。梓紗が楽しみにしていた雪だというのに、彼は小さく首を振った。 「夏樹(なつき)が教えてくれたでしょう? 雪は白くて冷たいものだって。これは白くないし、ちっとも冷たくない。赤く染色された綿なんじゃないの?」  怠そうに持ち上げた梓紗の手に雪は落ちて、あっという間に溶けてしまう。赤色をした水滴ができた。……もう寒さを感じないんスか?  梓紗は無邪気に笑う。 「でも凄いね。雪が見られなかったのは残念だけど、外では綿が降る事もあるんだ。面白い」 「……うん、そうなんスよ。外の世界はもっともっと、面白いもので溢れているんス。だからこれから、もっともっと、いろんなものを一緒に見ようね、梓紗。今度こそ雪も一緒に見よう」 「うん、約束」  そっと笑って目を閉じた梓紗に、梓紗を抱えるオレに、雪はふわりふわりと舞い降りて、あたりを白に染めていく。でも、梓紗とオレの近くだけは赤色に。  雪ヶ丘で一緒に雪を見た恋人同士は、未来永劫、ずっとずっと、一緒に居られる。  梓紗にとってコレは綿だった。じゃあ、オレ達は一緒に居られないんスかね?  穏やかな梓紗の寝顔を、涙で滲む視界に捉えて、オレはずっと梓紗の頭を撫で続けた。もう嬉しそうに笑ってくれないって分かっているんスけど。  背後から足音が聞こえて数秒後、静かな丘に銃声が1つ響いた。

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