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第六話

授業が終了すると、彰はすぐに身支度を整えて、豊海学園に隣接された寮に辿り付き、自室である219号室の施錠を開け、中に入る。 通常三人で一つの部屋を用いる寮であるものの、彰はとある事情から一人でこの部屋を使っている。 一息つき、彼は部屋に備えてあるシャワールームへ。寮の地下には全生徒共有の大浴場があるものの、彰は一度もそちらを使った事が無い。 衣服を洗濯カゴに入れ込んだ後、冷たいシャワーを軽く浴び、温度を調整してお湯へ変更。身体を暖めるとすぐにシャワーを終え、身体を拭いて部屋着を着込む。 シャワールームを出ると、どこか自分の部屋に違和感を覚えた。物の配置などは変わっていないものの、普段自分が見る光景とはどこか違う気がして、周りを見渡す。 ――ベッドが、僅かにモゾモゾと動いていた。  毛布を軽く退ける。するとそこには上半身裸の幸人が目を閉じて寝息を立てていて、思わず彰は右腕を強く振り下ろした。 ゴンッ、と鈍い音が響く。急いで体を起こして殴られた頭を押さえた幸人は、涙目になりながら殴った彰本人を見つめる。 「酷いです先輩、どうして思い切りのいいグーパンチを披露するのですか」 「理由を言わねばならんならお前はよぽどのアホだと思うが」 「うーん……なんだろう」 「いいかアホよく聞け。一つ、人の部屋に勝手に入るな。二つ、人の布団で寝るな。三つ、せめて服は脱ぐな」 「三つもありましたか。流石に分からなかったです」 「一つとして常識が欠けて無ければ分かる事の筈なんだがな」  早く出て服を着ろと促し、幸人も渋々と言った様子で従う。その間に彰は机の上で明日の用意をしつつ、宮田から渡されたプリントに目を通した上で二分ほどの時間を使い、回答を記入する。 布の擦る様な音が止んだ事を確認し、彰は幸人がしっかりとセーラー服を着ている事も確認。良しと頷いて椅子に腰かけた。 「で、理由を聞こうか」 「え、スルーですか?」 「何が。それよりどうしてお前は勝手に人の部屋へ入って布団に潜り込み裸でいた?」 「えぇ……」  なんでこの人スルーなんだろう、みたいな表情を浮かべながら、一先ず彰の質問に答える事とした幸人。 「まず先輩が帰っている事を確認しまして、ノックしたんですけど返事が無かったので、そのまま入室を」 「まぁ、シャワー浴びてたから気付かなかったんだろうな」 「その後先輩の香り漂うベッドが目についた為、思わずダイブですよね?」 「同意を求められても非常に困るが」 「そこで何だか先輩の温もりが恋しくなって、思わず服を脱ぎました」 「不法侵入する裸族の変態誕生だな……」 「それより先輩、一つ気になる事がありませんか?」  幸人の言葉に、彰も諦めを含みつつ頷いた。 「ああ、どうせだからそれも聞くか。どうにも噂の広がりが早い様に思えるんだ。噂がもう二年の教室でも広まってる」 「…………やっぱりですか。どうやら三年生の方にも噂は既に広がってるようです。帰り道に三年生の女子生徒が話してる所を目撃しました」 「俺の方は女装させた上に野外露出プレイをさせてる、という尾ひれがついていた」 「そう女装ですよ!」 「妙な噂だろう。火のない所に煙は立たぬというが、そこまで行くと発火させている者がいると見てもおかしくないような気もしてならない」 「どうして先輩はスルー出来るんですか! ボクちょっと恥ずかしくなってきましたよ!?」 「だから一体何の話ってお前なんでセーラー服なの!?」 「今ですかそうですかおちょくられてるかと思いましたよっ」  表情を真っ赤にさせながらも、スカートを両端をつまみ、少しだけ持ち上げる。 「で!? どうでしょう!? 似合いますか!?」 「噂焚き付けてるのはお前本人じゃねぇの!?」 「通販で買ったコスプレ用ですけど誰にも見られて無い筈です! ていうかどうして先輩は今の今まで気づかないんです!?」 「いや似合ってたからつい――あっ」  双方共に大声で行う応酬、しかし故に言葉を選ぶことが出来ず、本音を言ってしまう彰。  そこで幸人も驚いたように口をポカンと開けたが、次第にニヤニヤと言う言葉が似合う表情へと変えた。 「へぇ~、似合うですかぁ、そうですかぁ、そうですよねぇ。ボクってば可愛いから」 「調子に乗ってやがるなこの野郎……っ」 「もうそんなに似合うって思ってるならもっと早く言ってくれればいいのに~。先輩もカッコいいからボク達お似合いのカップルですよね」 「お前とカップルになったつもりも、なるつもりも無い!」 「もっと素直になっていいんですよ? こんなに可愛いボクが先輩のベッドで横たわってたんだから、このまま押し倒してしまえば、後は付き合って悪い噂を消してゴールインじゃないですか」 「じゃあお前はもっと真剣に考えろ! このままだとお前は俺に調教される可哀想なエム男子だぞ!?」 「構いませんよボク」 「構えよ!?」  叫んで疲れた。彰は椅子に座ったまま、頭を抱えて気になった事を聞く事にする。

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