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side三葉①
「ねぇ、2人にとって私って一体何なのかな?」
「ん? 俺達にとって君は可愛い恋人だけど、なんで?」
付き合い始めて数週間『ああ、またか』と俺は心の中で苦笑する。
「だってさっきからあなた達2人だけでずっとゲームをやっていて、私の事なんておざなりじゃない!」
「だってそれは仕方なくない? これは2人用のゲームだし、寂しいんなら変わるよ、ほら」
俺がコントローラーを差し出すと、彼女はそれにムッとした表情で「そういう事じゃないの!」と、声を荒げる。
「だったら何? 君はどうして欲しいのかな?」
「私はあなた達2人の彼女なんでしょ? もっと大事に扱ってって言ってるの!」
「俺達すごく大事に扱ってるつもりだよ、なぁ、三葉?」
「うん、すごく大事に扱ってるよねぇ、双葉」
俺の線対称に向かい側、俺と同じ顔が俺と同じ表情で苦笑しているのが見て取れる。双葉の心の内は手に取る様によく分かる、そろそろ潮時だなと感じているね。
「あなた達が仲が良いのは分かってる、私もそんな2人が好きで2人の彼女になれるならとそう思った。私はあなた達にもっと愛されると思っていたわ、だけどこれじゃ私なんてあなた達のただのおまけじゃない!」
「そんな事言われても……」
「2人両方の彼女でいいって言ったの君だよね?」
「そうよ! 2人の彼女になれば私は他の人の二倍愛されると思っていたわ、でも違う、結局あなた達は2人でいればそれでいいんじゃない! 彼女なんて必要ないんでしょ!」
「それは違う! けど、まぁ、そう思われちゃうんならもう仕方ないな……」
「うん、俺達を理解できないならもう無理だ」
「「別れよう」」2人の言葉が綺麗にハモる、「寒いから気を付けて帰るんだよ」と声をかけると彼女は悔しそうに眉を寄せ泣きそうな顔で部屋を出て行った。
「また駄目だったな三葉」
「そうだな、双葉。今度こそ上手くいくと思ったんだけどなぁ」
そもそも俺達に言い寄ってきたのは彼女の方からだ、よく似た双子の俺達を好きだと言って、2人とも好きだから選べないとそう言った。だから俺達は彼女を選んだというのに、結局これだ。
「なかなか上物のΩだったのに」
「彼女は物じゃないんだから上物とか言うな」
「だって、ただでさえΩは数が少ないのに、俺達2人を纏めて選んでくれる人ってそうないだろう?」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさ……」
「でもまぁ、俺は三葉が居ればとりあえず寂しくないからいいんだけど」
「それは俺も同感だね」
自然と唇が重なって、お互いが貪るように舌を絡め合う。何だかんだで2人でいるのが一番気楽で、本当は恋人なんていなくてもいいのかな? って俺は思ってたりもするんだ。けれど双子の兄の双葉は何故か恋人を欲しがって、とっかえひっかえ相手を連れてくる。それでも2人の恋人にって言った瞬間に引かれる事がほとんどだけど。
「今日はどっちの気分? 上? 下?」
「う~ん、じゃあ下」
冷たい指が俺の肌を撫でる。あぁ、もう冬だもんなぁ……
「双葉、冷たいよ」
「すぐに温かくなるよ」
そう言って笑う顔は俺と同じ。いつも思うんだけど、これってどうなんだろう? 自分で自分の顔に欲情するって、なんてナルシスト? それでも俺と双葉は別人だから本当に自分だったらげんなりするのだろうけど、それが双葉だと思うと興奮するの何でなのかな? やっぱり少し自意識過剰? だって俺は双葉がとても好きなんだ。
生まれた時から隣にいる俺の兄。いいや、どっちが兄かなんて本当は分からないよな、出てきたのが後か先か、たったそれだけの事だしな。
同じ卵、同じ腹から生まれてきた俺達は生まれてきた瞬間から2人で1人、本来なら別れるべきじゃない命が別れて生まれた、だからこんなにも愛しくてたまらない。
一説には双子は結ばれなかった恋人達が心中して生まれ変わった姿だって説もあるらしいけど、惚れた腫れたじゃないんだよ、そこに居るのが当たり前で俺は双葉でも三葉でもある。それはたぶん双葉も同じ、どっちでもいいんだ、名前が付いたから別人なだけで俺達は元々同一なんだから。
内臓を押し上げる律動、零れる吐息はどちらのものか。のけぞり見上げた窓の外、ちらちらと舞い始めた粉雪に思わず声を上げると「なに余裕ぶっこいてんの?」と、なお一層奥へと昂りを押し付けられた。
「ちょ……双葉っ! あんっ、まって、ひゃん」
「雪なんか見てないで俺を見ろよ、三葉」
「んっ、んんっ……ふた、ば」
見上げたそこには、やっぱり自分にそっくりな顔があるだけなのになんか可笑しいの。
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