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side双葉

 朝食の目玉焼きを作ろうとこんこんと卵を割ったら黄身が双子だった。 「お、今日はツイてるね」 「ん? どしたの?」  じゅうじゅうと焼けるフライパンを少し傾け見せるように「ふ・た・ご」と笑って見せると三葉は「珍しくもないだろう?」と苦笑した。  俺の名前は榊原双葉(さかきばらふたば)、そしてリビングで大人しく待っているのが俺の双子の弟、榊原三葉(さかきばらみつば)。  名前もそっくり、顔もそっくり、何故なら俺達は一卵性双生児だから。5人兄弟の次男と三男として生まれた俺達だけど、社会人となった俺達は2人揃って家を出た。同じくらいのタイミングで長男と4男も家を出てるから現在実家に残っているのは末弟のみ。  急に寂しくなると嘆いていた両親だったがそれに乗じて転がり込んだ弟の恋人と弟が結婚して間もなく孫が生まれる事もあり、今はあまり寂しさを感じていないみたい。  結構な事だが逆にこっちが少し寂しいくらいだ。 「母さんから年末年始どうする? って連絡きてるよ」 「仕事いつまでだっけ?」 「確か30日まで、仕事始めは5日」 「じゃあ大晦日と元旦だけ帰省するか」  俺と三葉はフリーのモデル。双子で美形というのが面白がられて今現在は需要があるけど、そんなのは長く続かないと分かっている。だから受けられる仕事は片端から、今のうちに稼げるだけ稼いでおいて、潮時になったら2人で何かしら起業しようかと話し合っている。具体的にはまだ何も決まっていないけれど、今後もずっと俺と三葉は2人で1人、そういう扱いされるのを双子は嫌うものじゃないのか? って聞かれる事もあるけど、俺は全然平気。いないとむしろ不安で仕方がない。  モデル仲間から年末年始は海外で、なんて誘いもあるけれど別にどうでもいいなぁ、それより三葉と家でまったりしてる方がよほどマシ。 「あ、双葉……また雪だよ」 「おお、ホワイトクリスマス。そういえば彼女の為に準備したプレゼントが全部用無しだな」 「それな! どうする? 豪華ディナーも夜景の見えるホテルも全部キャンセルにする? 正直家から出るの面倒くさい」  甘えるように三葉が背後から抱きついてきて、俺の腹に腕を回し肩の上に顎を乗せ「今日は双葉とまったりがいいなぁ」なんて、可愛い事を言ってくる。  でもせっかく取った予約だぞ? クリスマス当日なんてホント予約取るだけで大変だったんだからな? 「三葉はホントそういう所出不精だよな。いいじゃん、2人で楽しもうぜ」 「えぇ……こんなくそ寒い中、出てくの嫌だぁ」 「勿体ないだろ? 当日キャンセルは全額支払いなんだぞ?」 「双葉はそういう所しっかり者のお兄ちゃんなんだから! でもそういうとこも好き!!」  ぐりぐりと肩に頭をこすり付ける三葉、俺もお前のそういう可愛い所大好きだよ。  手離せないなと思う、別々の生を受けて生まれてきたのに、やっぱり俺達は2人でいるのが一番しっくりくるのだ、本当に何故2人とも同じ性で生まれてしまったのか、せめてそこさえ違っていたら…… 「どしたの、双葉? ぼんやりしてると焦げちゃうよ?」 「お前が纏わり付いて来るからだろ?」 「えぇ、そんな事言うの? だったらもっと悪戯しちゃお」  背後から伸びてきた腕がコンロの火を消し、俺の腰をぐいっと抱く。半熟卵好きのお前の為に火加減見ながら焼いてやってんのに、こんな事してたら固焼き卵だな。  でもまぁいいか、今日は恋人達がいちゃいちゃする日だもんな、2人とも今日は一日オフだし、満足いくまで付き合うよ。

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