22 / 52

心も知らず 第6話

「なんだよ?」  不思議そうに見上げる祐志の左耳に手を添える。その耳朶を、親指でなぞった。 「お前、ピアスは?」 「は?」 「最初の頃してただろ? ちっちゃい石の付いたヤツ」 「ああ、入学当初な。……外したよ。最初は家でとか休みの日は付けてたけど、付けるの忘れてるうちに穴塞がっちまったから。――よく憶えてんな。学校に付けてきたのなんか、外し忘れてた数回しかないぜ」 「……ああ」  勿論、憶えてる。  だって、それがキッカケだったんだ。  祐志の耳で反射する夕暮れの光が、あの夕陽に似てたから。  今度こそ絶対残したいと思わせる、眩しい光景だったから……。 「俺。あん時祐志に会わなかったら、きっと美術部入ってなかったし」  呟いた俺に、祐志が薄く笑った。 「そう? そりゃ会えててよかったな」 「だけど今は。写真の方がいいかも……」  少し色を抜いた祐志の髪がオレンジ色に輝いている。それを見つめながら、意識せず、俺の『思い』は声になってしまっていた。 「どっちなんだよ。……ところで。いつまでも人の耳朶で遊ぶの、やめてくんない?」

ともだちにシェアしよう!