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しづこころなく 第9話
少しばかり不気味だ。
公園の前まで来ると、「なあ、祐志」と声をかけてきた。
「なんだ?」
「アレ、見てみ」
「……!」
弘人が指差した1点に、目が釘付けになる。
指の先にあるのは、この公園の隅に植えられた1本の桜の樹。偶然にも隣に立っている外灯に照らされて、あたかもライトアップされているかのようだ。
横に広がった枝には、ほぼ満開に桜が咲いている。
言っちゃ悪いが、こんな小さな公園には勿体ない程の立派さ。
「……へぇ……」
小さく感嘆の声を洩らして、隣からの弘人の視線に気がついた。ふと目を向けると、弘人が笑顔のまま、 驚いたように目を見開く。
「……んだよ」
「いや。びっ……くりしたぁ……。急にこっち見んだもん」
「お前がこっち見てるからだろ」
「あ。そっか」
苦笑するように顔をしかめると、弘人は公園へと足を踏み入れた。奥のベンチへと腰を降ろして、俺を見 上げる。
「ほら。ここならよく見える」
桜を指差しながら上機嫌で言う弘人を、俺は少々呆れた目で見下ろした。
「で? なんだよ、話って?」
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