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しづこころなく 第13話

 電話で話しながら、弘人が突然チラリと俺を上目使いで見た。携帯で会話をしながら、ナスの天ぷらを器用に箸で半分に割り始める。何を思ったのか、割った片割れを箸で俺の口元へと持ってきた。訳が解らずに弘人を見ると、その目が「食え」と言っている。  俺は顔をしかめて、「いらね」と手でそれを払う仕草をした。それでも懲りずに弘人は口の前に何度も天ぷらを持ってくる。 「うん。……うん。――あ、ちょっと待って」  携帯を耳から離して肩口に押し当てると、弘人は真剣な声を出した。 「いいから。ひと口だけでも食えって!」  声を押し殺すようにして言う。その勢いに気圧されて、渋々口を開いた。  ――うっ。人に食べさせてもらうのって、凄ぇ恥ずかしい。……2 度とご免だ。 「あ、もしもし。すんません。……うん、そう。祐志と2人で。え? 食ってるよ。でも、大半は俺が1人で 食っちゃうかも。――ホント? やったぁ」  しばらく話し込んだ後、やっと弘人は通話を終え携帯をしまった。 「何やってんだよ。お前は」 「えー。だっておばさん、お前も食ってくれてるかって、不安そうだったから……。家で何かあったの?」

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