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「知らない奴より良いだろう?」
確かに……佐野と叶多は須賀の言う通り、初対面という訳ではない。だけどこの場合、それがプラスに働く要素は皆無じゃないかと叶多は思うが、言葉になんて出来やしない。
先日……委員長の岩崎に騙され、連れて行かれた生物室で、突然現れ名乗りもせずに、叶多を甚振 る指示を出したのが目前にいる佐野だったのだ。
できれば二度と関わりたく無いと思うのが、当然の心理だろう。
「……了解。やれと言うならやりますよ。会長」
呆れたようなため息交じりの声が聞こえ、叶多は拳を握り締める。
「話は終わりだ。明日からでいい」
須賀の声が響いたすぐ後、ドアの開閉する音が聞こえ、出て行ったのだと思った叶多が恐る恐る顔を上げると、斜め前に座った瞬と僅かな時間視線が合った。
―― 瞬……どうして?
「とりあえず、明日から佐野がお前のガードだ。分かったな?」
全く理解する事が出来ずに混乱している叶多の横から、須賀の声が聞こえて来たから条件反射でコクリと頷く。
どうせ拒否権は無いのだから、モタモタしていたら何をされるか分からない。
「じゃあもうお前はいい。部屋に戻れ」
そう続けられた須賀の言葉に、叶多は思わず彼を仰ぐが、表情の無い横顔からは考えがまるで読み取れなかった。
「は……い」
とりあえず、返事をしてから叶多は静かに席を立つ。この空間から抜け出せるのは、正直とても有難かった。
「失礼しました」
ドアを出る時に振り返ってから中に向かって一礼すると、薄く微笑んだ瞬が小さく頷く姿が目に入り、それだけで胸がジンとする。
状況から、彼が伊東の従者なのかもしれない……と、叶多は思うが、本人にそれを聞ける機会は当分巡って来ないだろう。
佐野をガードに据えた事には悪意しか感じられないが、ならばせめて存在を消していたいと叶多は強く思う。
息を殺し、須賀の視界の中へはなるべく入らないように、任期切れまでは耐なければと自分自身に言い聞かせ、叶多はここに来た時同様重い足取りで自室へ向けて歩き出した。
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