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「で、俺に何の用ですか?」
「ああ、その話だが……」
気後れする素振りも見せずに訊 いてくる佐野を視界に入れ、唇端だけを器用に上げると、彼を真っ直ぐ見据えた悠哉は良く通る声で言い放った。
「俺の従者のガードになれ」と。
***
授業中、震えた携帯電話を見ると、着信ではなくメールだったから叶多はひとまず息をついたが、書かれていた内容を見て胃の奥がズンと重たくなった。
そこには……放課後生徒会室へ来るようにと書いてあり、正直来たくは無かったけれど、逃げ場なんてもう何処にもないから、仕方無く重い足を運んだ。
―― どうして瞬が? なんで……この人が?
そして今、状況に上手く付いていけずに、叶多は激しく混乱している。
生徒会室に入って最初に声を掛けてくれたのは、会計をしているという椎葉という生徒だった。
快活そうな爽やかな顔に明るい笑みを浮かべた彼が、緊張の余り強張る叶多を須賀の隣へと誘導したのだ。
須賀はチラリとこちらを見たけれど話しかけてくる事もなく、すぐに興味を失ったように視線を書類に戻したから……叶多は彼に怯えながらも僅かな希望を抱いていた。
今日は本当に何も無いかもしれないと。
ただ従者だから、用もないのに呼んだだけかもしれないと。
なのに。
「冗談だろ? 何故そんな事をしなくちゃならない」
佐野と呼ばれた生徒の声は表面上落ち着いてはいるが、見下すような視線が真っ直ぐ叶多の方へと向けられる。
「冗談を言う為に呼んだりしない。お前、コイツと同じクラスだろ?」
「ほとんど出席してない」
「なら出席しろ。これは決定事項だ」
何故彼はいつも他人の話を全く聞こうとしないのだろう……と、叶多は心で毒づくが、この状況では視線を下へと向ける事しか出来なかった。
「その子は納得してるの?」
「コイツの意見は関係ない」
意見なんて聞いて貰える筈も無い。そもそも人間扱いすら、受けた覚えが叶多には無かった。
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