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問題ない、そう答えようとしたけれど、ぼろりと目から涙が溢れた。怖い夢を見て泣くなんて小さい子みたいだ。 「大丈夫、大丈夫」 それでも低く優しい声に促されるように、ぼろりぼろりと涙が流れて、宗弥の指とマスクを濡らしていくうちに楽になっていく気がした。 「優しいんだな、宗弥くん」 「呼び捨てで良い。下の名前で呼んでもいいし。俺もそうするから」 そんな風に言ってもらえるのを意外に思っていると、「どうした侑哉」と早速名前を呼ばれた。 「いや、なんか意外で」 「……ああ、俺、苦手なんだ、話すの。侑哉は弟に似てるから」 察してくれたらしくそんな答えが返ってきた。怖い夢にうなされる弟くんと重なったってことだろうか。 ずずず、と鼻をすする。 「落ち着いたか?」 「うん」 校舎での一件を忘れようなんて、簡単にできるのならばここへは来ていなかったはずだ。 あのまま夢を見続けて目が覚めた時に1人だったなら、そのまま入学式まで引きずっていただろう。 「ありがとう」 「気にするな」 それから、健助の弟さんのことや、ベッドの上下など部屋のことを少し話して別れた。 1人になるとコンタクトを付けたままだったことに気づいて慌てて外し、床で寝てしまって痛む身体をストレッチで伸ばしたり、荷物整理の続きをしながらこれからのことを考えた。 学校が始まったら一体どうなるだろうか。 今はただうまくいくように、どうぞよろしくと念じておこう。

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