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俺を引き込んだ腕は知らない1年生のものだったけれど問題はそこではなくて、奥のパイプ椅子に座る先輩の方がダメだった。公園で葉桜を襲い、俺の髪を掴んだ人だからだ。
「よぉ、さっきぶりだなぁ?」
「……そうですね」
逃げるつもりが飛び込んでしまったというわけだ。飛んで火に入る夏の虫、あれだけ睨みつけた相手が密室になる部屋に1人で現れたとなれば、身の安全はどうなるだろうか。分かっていることは俺が彼の邪魔をし初手を避けて自尊心を傷つけてしまったことと、さっきはあくまで根津先輩が来たから引いただけだということ、そして彼はかなり暴力的だということだ。
葉桜が離れる時間を稼いだら逃走を図りたいけれど、先輩は既に椅子から立ち上がっている。両側にロッカーと、いくつかのパイプ椅子、側には味方にはなってくれないだろう同級生。同級生がいやににこにこしていて、こんな場面でなければ友好的だと錯覚しそう。
「お前1人か」
「はい」
助けが来ないことの確認だろうか。それとも葉桜を探して?
「俺はこう見えて反抗的なやつが好きなんだよ」
いや、この感じ、絶対目的は俺だ。続く言葉が予想できてしまう。
「ねじ伏せる楽しみが増えるだろ!」
先輩が踏み込んで手を伸ばしてくる。それを再びかわしながら、後ろのドアに手をかけた。がちゃん、鍵がかかっている、いつの間に?
「お前はそう来るよな。おいグズ抑えろ」
「ごめんね?俺この人に逆らえねーの」
鍵を開けドアノブを回した直後、シャツの襟を後ろから引かれて首が締まる。思わず離した手を捻られ引き倒された。
失敗したと悟った足元で、わずかに開いていたドアがゆっくりと閉まっていった。
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