152 / 329
76
「本当か?何かされたとか……」
「ないよ」
どきっとしたけれど、否定すると健助は「そうか」と頷く。いつもそんなに追求してこないので助かる。ただ俺の身を案じてくれている。
「迎えに来てくれたのかな、ありがとう」
「ああ……頼まれた」
早朝から仕事があるから念のため迎えに来てあげて、と昨夜太朗くんが頼んでくれていたらしい。言われなくても来たけど……、と健助。確かにそうだろうなと思う。なんだろう、面倒見の良さというか、少し過保護なところが、健助と太朗くんって似ているのかもしれない。だから、最初から健助と居ると安心するような気がしたんだろうか。
納得していると、フードで分かりにくいけれど健助が首を傾げるような仕草をしたので、話題を変えた。
「昨日の夜寝ちゃってごめん。帰り大丈夫だった?」
「ん……あの後下が騒々しくなったけど」
俺が寝落ちてしばらく、例の男たちが騒いだらしい。待っても落ち着く様子がなかったので一人で帰ったそうだ。その時にちらりと聞こえた話によると、女の人は被害届を出さないみたい。ただ彼らは出入り禁止になりそうとのことで、少し安心した。
「騒いでたの全然気づかなかった。眼帯貼ってもらったとこまでしか記憶がない」
「よっぽど疲れてたんだな」
そうかもしれない。労うように頭を撫でられて、疲れが抜けていくような感じがした。
ともだちにシェアしよう!