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「堰」  ちょいちょい、と手招きされて先生の側に寄る。危険物所持のボディチェックみたいに軽く触れて身体を確認された後、顔を数秒見つめられて視聴覚室で手を握られた時のことを思い出した。先生はあの時と同じ、見透かすような目をしている。 「怪我はなさそうだな。クイズは楽しかったか?」 「あ、はい。楽しかったです」 「そうか、そりゃあ良かった」  ふと目の端の緊張が解けた。今度こそちゃんと安心してもらえたかな、と思った矢先、先生は一瞬俺の後ろへ視線を動かして顔をしかめた。 「堰、お手」 「え……、と?はい」  突然なにを言い出すのだろう。困惑しつつ差し出された手に左手を置くと、耐えられないとばかりに先生は噴き出した。自分で言ったのに。けれどよく見ると、俺というより俺の向こう側に意識があるようだ。変顔でも見せられたのか?いやまさか、後ろに居るのは健助と蕗口だしな。振り返ってみてもやっぱり真顔と笑顔の2人が立っているだけだった。 「先生?」 「いや、すまん、くくっ……分かりやすいなあいつら」 「なにがですか?」 「なんでもないから遊んで来い。ほれ、仲間が来たぞ」  言われて振り返るまでもなく、気づいたら横に桐嶋が居た。

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