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放課後、蕗口と合流して萩の寮へ来ていた。内装はほとんど変わらないのに、藤色よりはっきりとした濃い赤紫が所々に使われていることで、随分と印象が違って見える。
蕗口は何度か藤寮を訪ねてくれているけれど、俺がこちらへ来たのはもしかしたら初めてかもしれない。友達になってからそんなに日も経ってないし、たまたまと言えばそうなんだけど。
「着いたよ。たぶん、今の時間なら居るはず」
「うん」
蕗口が三坂寮長の部屋のドアをノックする。返事はすぐだった。
「はいどうぞ」
「……失礼します」
「失礼します」
柔和な声に招かれて開いたその先で、見覚えのある人がイスに腰掛けた体をこちらへ向けてくれている。
「1年生の……蕗口くん、だったかな。そして君は……?」
見たような気がするけれどはっきりしない、という顔で俺をまじまじと見るもんだから、隣の蕗口まで不思議そうにこちらに目を向けてきた。そういえば蕗口はあの時の様子を知らないのかもしれない。少し異様で、愉快な光景を思い出した。
「……過日はパーティの先導を、ありがとうございました。お陰さまで無事勝利を収めることができました」
「ん……?ああ、あの時の君か。んふふ……それは何より」
わざとらしく世界観をなぞってみたら一瞬眉が寄ってひやっとしたけれど、すぐ忍び笑いに変わったので気に入ってもらえたみたい。恥ずかしかったからもうやらないけど。
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