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意図が分かっているのに完全には切り替えられなくて悔しい。もし今襲われたらどう対処するべきか、なんてことをつい考えてしまう。さすがに一度罰を受けているから目立つ行動はしないはずだけれど、身内の蕗口曰く、“馬鹿ではないけど気が短い”あの人は何をするか分からない。警戒して損はないだろう。
「堰くん昨日より暗い顔してない? 大丈夫?」
テスト2日目の昼。食堂で野中先輩に声を掛けられた。そんなに顔に出てるのか。
「先輩……今日のテストが……」
「おーっと、駄目だったかー?! でも忘れよう! 明日がある! 教えたげるから、ねっ!」
フォローしてくれる野中先輩の横で、根津先輩が俺と健助を交互に見るのが視界に入る。
「……宗弥」
「はい」
意外にも根津先輩は俺でなく健助を呼んだ。少し離れて2人は話し出す。
「あの2人並ぶと威圧感あるなー。半径50センチぐらい人避けてんじゃん。ウケる」
「ですね」
2人を見ながら無意識でため息が出た。テストが上手く解けなかったのは本当だ。ただそうなった理由がある。
今朝のことだった。身支度を整え、健助と共に部屋を出ようとした時。ドアを開けたら紙が落ちてきた。拾い上げると乱雑にこう書いてあった「借りは高くつく」。どう考えてもあの人だ。内容はともかく、夜中のうちに部屋の前まで彼かその仲間が来たというのが問題だった。近づいてきている。
今根津先輩はその話を健助から聞いているのだと思う。
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