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「たとえばなんだけど」
部屋に戻り勉強会の準備をしながら、あまり意味のない前置きをして話してみる。
「声だけしか分からないけどたぶん同じ人と、同じ場所で何度も出くわすのってどう思う?」
「どこで?」
「トイレ」
「相手は?」
「分からない」
2段ベッドの向こう、カーテン越しに健助が振り向く気配がした。そうだとは思ったけれど本当に全く前置きは意味をなさなかった。ほんの少しも例えとして捉えられてないことが分かって、観念した俺は正直に言うことにする。
「……実は少し前から、トイレ行くと個室で苦しんでる人と遭遇するんだ」
言葉にしてみるとなんだかシュールだな。腹事情を洩らされた見知らぬ相手が気の毒になってくる。
「ごめん、やっぱり気にしすぎ……」
「心当たりは?」
「えっと……」
「可能性は。そいつが侑哉の脅威になるか」
「……絶対ないとは言えない」
そう。限りなく低いと思ったから気にしないようにしていたけど、ないとは言えない。油断する場所ではあるし。やっぱり、先輩を知ってる蕗口に一度聞いてみた方が良さそうだ。
けれどその前に。健助は真面目に聞いてくれた。ほとんどなにも話していないのに。俺もちゃんと応えなければいけないと思った。いつも尊重してくれるのに、俺が信用しなくてどうするんだ。
「健助、そっち行って良い?」
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