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 先輩は即座に「いや」と否定する。 「談話室行ったら貼り紙されてた」  電話のやり取りが終わってからそれほど経っていない。もし先輩が偶然蕗口の近くに居たとして、「走って移動するような人目につきにくい静かな場所」からこの部屋まで、こんなに早く来れるとは思えない。……と、考えたのは口に出した後の話で、ただ蕗口の安否が心配で先走ってしまった。 「貼り紙ですか」 「うん。でもなんか、慌てて書いたのか彼にしては雑な字だったなあ」  それは本当に蕗口が書いたんだろうか? 「まあとりあえず俺も自分の部屋で勉強してるから、なんかあったら声かけて」 「はい。ありがとうございま……先輩ちょっと失礼します!」  部屋に戻るために向けられた先輩の背中に紙が貼り付けられているのが目に入って、お礼も言い切らず剥ぎ取った。一見白紙だが裏返すと……。  ”奴は無事だ。騒ぐなよ”  蕗口のことだ! やっぱり無道先輩かその仲間が、野中先輩の背中と談話室にそれぞれ貼り紙をしたと考えるのが自然。でもこの文章そのまま信じて良いのかな。本当に蕗口は無事か?  悩む俺の前方から紙を覗き込んだ先輩がドン引きしている。 「ええ、なにこれ……いつの間に……」 「困った悪戯ですね。捨てておきます」  先輩が内容に疑問を持たないうちに悪戯ということにして、紙をぐしゃぐしゃと丸めた。腑に落ちない様子だけど納得してもらわないと困る。 「今度は悪戯されないように気をつけてくださいね」  ちょっと強引に別れを告げて、首を傾げながら離れる先輩の背中が見えなくなるまで見送ってから、ドアを閉めた。  とにかく対策を立てなければ。

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