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「離してもらえますか」  健助の声の低さにぎょっとするもののひょっとこの俺は言葉が出せず、先生の手をとんとんと軽く叩いた。そうすることでようやく先生は笑顔のままでぱっと手を離す。 「ああ、これはすみません」  全然悪びれてはないな、と思ったけれど健助はもう気にしていないようだった。片手に載せたトレイをどこに置けば良いか聞いてくれる。それを受けて、先生は一旦秘密の部屋に姿を消した。 「大丈夫か?」 「うん。ありがとう」  ひょっとこにされていた自分を思い出して笑ってしまう。健助はよく平気でいられるな、と思っているとトレイを載せていない方の手がいつになく遠慮がちに俺の頬に伸びてきて、触れずに止まった。昨日のことで気遣ってくれているんだと分かる。いつも誰よりも近くに居て、誰よりも気を遣ってくれる。 「平気」  それでも本当にゆっくりと、ほんの少しでも俺が動揺を見せたら2度と触れてこないんじゃないかって慎重さでやっと指先が辿り着くと、その瞬間秘密の部屋から先生が戻って来た。 「お待たせしました。この机を使って……おっと」  反射的に動かしてしまった顔は、自分から健助の指に突き刺さるような感じになってしまい、有名な笑顔のマークみたいな口になった。 ちょうどトレイが置けるぐらいの机を俺の体を跨ぐ形でそっと下ろしながら、先生が菩薩みたいな顔で微笑んでいる。真似してじゃれあっているように見えてるのかもしれない。偶然です。

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