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「侑哉、大丈夫か?」  湧きに湧く他の寮生たちの中で、普段通りの落ち着いた健助の声。へたり込んでたのをしっかり見られたんだな。 「うん、結構疲れたかも」 「良い走りだった」 「ありがとう」  周りの興奮にあてられて気が緩んだのかもしれない。深い意味はないなんてことは分かっているのに、ふと、ハチマキのことを聞きたくなってしまった。 「健助はなんでハチマキ手首に巻いたの?」  口にしてからすぐに後悔した。逆の立場ならなんでそんなこと聞くのか困惑したと思う。ちょうど閉会式の案内が流れたので、このままなかったことにしてしまおう。 「分からない。でも、視界に入りたかったんだと思う」  と、なかったことにする前にちゃんと答えが返ってきて、応援合戦の時に見ててくれと言われたことを思い出した。寮対抗リレーの時に俺も健助に見ててほしいと思ったけれど、これは同じ意味と言えるのかな。  巻かれた2つのハチマキをぼーっと眺めながら、閉会宣言を聞く。  体育祭が終わってしまった。  その夜、まだ足りなかったのか体育祭の夢を見た。ゴールテープが現れず、何周もトラックを走り続ける夢だ。うまく足が動かなくて体も重く、とうとう疲れ果てて諦めそうになった時、誰かに名前を呼ばれる。その声を聞いた瞬間に体は勝手にラインから外れ、ゴールテープを切らないままで声の主の元へ走って手を広げる。確かに相手の名前を呼んだのに、朝目が覚めたらそれが誰だったか忘れてしまっていた。  きっとそのうち夢自体忘れてしまうだろうけれど、名前を呼ばれた時の嬉しさは覚えていたい。

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