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なんとか食らい付いてはいるけれど、開いた桐島との距離が縮まらない。どんどん彼の背中が小さくなっていく気さえする。でももし、このままゴールテープなんて失くしてしまって走り続けていれば、いつかは彼を抜けるんじゃないかと、自信のような負け惜しみのような感覚がふっと頭を過った。
「堰!」
……今の俺のゴールは決まっている。呼ばれた先、寮長の所だ。上下に揺れる眼鏡の向こうにゆっくりと走り始める寮長の顔が見えてきて、その自信に溢れた表情にはっとした。
「もっと全力で来い! お前ならできる!」
不思議なことにその声で足が軽くなって、どんどんスピードに乗っていくと桐嶋の背中に追いついた。バトンを落とさないよう腕を伸ばし、しっかりと寮長が握ったのを見て素早く手を開く。
「良くやった!」
寮長が背を向けて遠ざかると、やり遂げた安心感から膝から力が抜けて今度はそのまま地面にへたり込んだ。最後まで桐嶋を追い抜けなかった。けれど今の全力以上の力を出せた。
へたり込んだまま勝負の行く末を見守る。バトンを渡した時は2位。乗堂寮長はみるみる距離を詰めて、抜いたり抜かれたりするたびに声援がどんどん大きくなっていく。最終的に見事にトップでゴールテープを切った。デッドヒートに会場は湧き、寮長と野中先輩がハイタッチをして同時に俺を見る。混ざりたくて立ち上がると少し膝が笑うけど、俺が2人の所へ行く前に2人がこちらへ走って来てくれて、3人でハイタッチができた。
するとそれを見た藤寮生たちが生徒席から溢れてきて、あっという間にお祭り騒ぎになる。色んな人に声をかけられながら心の底から思った。
ああ、楽しい体育祭だった!
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