297 / 329
40
変な緊張をしないように、腕から視線を外して一旦考えるのを止めた。
寮対抗リレーは、各学年ごとに1人ずつ、それぞれがトラック半周の200メートルを走る。順番は2年生からスタートして1年生、そしてアンカーが3年生の寮長だ。入場すると1年だけ中間地点で待機となる。
スタート地点の野中先輩を見るとひらひらと手を振ってくれた。寮長と同じで緊張していないみたい。
「位置について、よーい……どん!」
先輩は号砲が鳴ると誰より先に飛び出したので、慌てて俺も走る体勢を取る。そういえばバトン受け渡しの練習していないけれど大丈夫かな。今更不安を覚えながらゆっくりと走り始め、手を伸ばす。
「渡すよ!」
「はい!」
右手にバトンが押し付けられ、しっかり握るとふっと軽くなる。野中先輩のバトンパスが上手なおかげでスムーズに受け取れた。左手に持ち替えつつ、全力で走り出す。
最後の最後で200メートル全力疾走は思ったよりきつい。まだ大丈夫だと思っていたけれど体は結構疲れが溜まっていたらしく、一瞬膝から力が抜けてしまった。
「侑哉!」
「堰!」
「ゆーやくん!」
その瞬間、応援の声が一気に耳に届いて踏ん張ることができた。声の中には健助も居た。見てくれてるんだ、頑張らないと。
「堰ー! 勝負!」
疲れなんて忘れたところで、1つ挟んだレーンから桐嶋に発破をかけられ、さらにやる気が増す。
きついけど、彼との勝負は楽しいな。
ともだちにシェアしよう!