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準備は思いの外スムーズに進んだ。重労働は段ボール運びぐらいで、前後の片付けが要らなくて空調の効いた視聴覚室での作業は割と快適だったから。
一番楽しかったのはシャツに絵の具で血を描いたこと。当日はこのシャツを着て、ノックされたら段ボールのチェーンソーと斧を持って「僕と遊ぼうよ」と少しだけお客さんを追いかける少年の役をやる。なんか混ざってるけど気にしないことにした。
他の仕掛けは霧吹きで水をかけるとか、隙間から手や足を掴むとか、「ぽぽぽぽ」と言いながら天井に頭が付くぐらい背の高い女の人の人形、マジックでよく見る頭が落ちる役や首が180度回る役がある。BGMはお経。前後半に分かれて最終チェックを兼ねた体験をしたけれど、思ったよりも雰囲気が出ていて良かった。
「堰の役、なんか追いかけられたら逃げちゃうけど、後からじわじわ面白いよな」
体験した桐嶋にそう言われて、少し焦る。ちょっとでも怖がってもらわないと。
「え、そう? 怖くないかな?」
「いやそういうことじゃないけど、ちょっとシュール」
やっぱり普通に少年より強そうなお面とかの方が良かったのでは。
「今からでもお面作ろうかな」
「それはそれで面白いけど」
ちなみに桐嶋はこういう役が合わないという理由で、隙間から足を掴む役になっている。元気すぎる幽霊も一周回って面白い気がするけど。
「本番、たくさん怖がらせような!」
「うん」
ちょっと語弊があるなと思いながら頷いた。
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