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「堰も大丈夫か? それ見えてる?」
他人の汗も気にせずそんなことをするのは、同じリヤカーを隣で押していた桐嶋だ。汗で束になって張り付いた前髪は普段より重く、眼鏡も汚れているので正直見えにくい。
「……うん」
前髪をのれんのように上げられてしまっているので目線をしっかり合わせないようにしながら答えたら、ぶっきらぼうな感じになってしまった。
「髪の毛上げるか除けたら?」
心配してくれているのは分かる。分かるけれど、無理な提案だ。
「大丈夫。それより汗で汚いから触らない方が良いと思う」
「えー俺も汗だくだし」
ちょっと食い気味でさらに素っ気なくなってしまったのに、桐嶋は笑っている。元々よく肩を組んだりはしてくるけれど、なんだか今日はいつもに増してスキンシップが多い。暑い時って大体は逆だと思うんだけどな。
「もったいね」
「おーい、なんか重くなったけど手抜いてない?」
押すのに集中するよう言うべきか考えているところで、先に前から引っ張ってくれているクラスメイトから声がかかってあっさり手が引っ込んだ。
「わりー、片腕休憩してた!」
「俺も休憩してえ」
「腹で支えたら?」
「食い込んで千切れるわ」
桐嶋が前に向き直って、リヤカーを押す力が自然と強くなる。彼の手から移ったのか、軽く頭を振るとうっすらと鉄の錆びた匂いがした。
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