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「旦那様がお帰りになりました」
「お帰りなさいませ」
飛び交う丁寧な挨拶に、順番が来て入った瞬間なんとも言えない気恥ずかしさでうっとなってしまった。
シンプルな内装の中ところどころにある植物、燕尾服のようなものを着た「執事」と、上品に振る舞う「ご主人様」たち。思ったよりもちゃんとしている。席でそわそわしていると、周囲の視線を一身に浴びながら1人の執事がにこやかに近づいてメニューを差し出した。
「旦那様、本日は遅うございましたね。じいやは今か今かとお待ち申し上げておりましたのに」
ほろほろと芝居がかった泣き真似をするのは蕗口だった。まさかの年配設定に桐嶋は噴き出し、他のご主人様たちはきゃっきゃと喜ぶ。1人置いてきぼりの俺を見てくすりと笑い、蕗口は桐嶋に視線を投げた。
「おぼっちゃま! はしたのうございますよ!」
「お、お、おぼっちゃま!」
追い討ちで桐嶋がひーひー言い出したので、なんだか冷静になれた。メニューを受け取って、お茶、紅茶、コーヒー、オレンジジュースの中から無難に紅茶をオーダーする。
「承知いたしました。おぼっちゃまはオレンジジュースでよろしいですね」
笑いを抑えようと口元を手で覆っているので勝手に決められたものの、桐嶋はうんうん頷いて了承した。それを受けて蕗口は綺麗に礼をして、視線を浴びながら仕切りの向こうへ下がっていった。
……びっくりするぐらい様になっているなあ。
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