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後編
デパートに行きたいと言ったら、高級なデパートを指定された。
入り口近くの某高級ブランドに入ったら「いらっしゃいませ田中様、本日は何をお探しでしょう?」と店員が言う。
本当にホンモノだったわ、コイツ。
貴文は堂々と答える。
「この美しい方にプレゼントを選ぶから、構わないでくれていいよ」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
淡いピンクのバッグと淡いブルーのバッグと迷っていたら、「沙也加様には両方お似合いです。両方にしましょう」などと真顔で貴文が勧めてくる。
悪い気はしない。
「化粧品も見たいの」
貴文にちょっと甘えた声を出したら、顔を赤くして「もちろんですとも」
その時バタバタと足音が聞こえた。それはこのブランドの入り口手前で止まり、静かに入ってきた。
「貴文様、いらっしゃいませ。本日は実にお美しい方とご一緒ですね」
外商部の田中家担当、杉村という人だそうだ。
「この方にプレゼントをするんだ。バッグは両方プレゼント用に包装して。杉村さんには化粧品コーナーまでの案内をお願いするね」
話がどんどん大きくなる。気分は上々だ。
どの化粧品ブランドでも下にも置かない扱いをうけた。いつもは「この小娘が」という顔をされることもあるのに、誰も彼もにこやかで親切だ。
一番親切なのは貴文で、アタシがどんな色をつけても「お似合いです。これも買いましょう」と雪だるまの如くプレゼントが膨れていく。
「もう満足だわ」
アタシがそう言うと、貴文はまだないかと心配する。
とてもこの数時間で百万以上使った中学生とは思えない。
「アタシを満足させてくれたかったんでしょ?」
「はい」
「なら、満足したわ、今日は」
アタシはニコッと笑いかけてやる。貴文はとてもうれしそうにした。
「また、遊びましょ」
「お宅まで送って行かせてください」
必死な貴文に首を振る。
「魔法が解けちゃうから嫌よ」
「わかりました」と聞き分けがよくなっている。いいことだ。ストーカーは元ストーカーになったようだ。
アタシはデパートの出口で名残惜しそうな貴文と別れ、自分で拾ったタクシーで自宅に戻った。
昔ながらの「質」と書かれたのれんを潜り、店に入る。
「いらっしゃいませってお前かよ。裏から入れよ」
兄貴が顔をしかめる。アタシはデパートの袋からブランドバッグの箱二つを出す。
「客ですう。これおいくらになるかしら」
「未成年は受け付けません。でも見させていただきます」
カウンターに肘をつき、バックの鑑定を見つめる。
兄が顔を上げた。
「今度はどんな男だ?」
「ストーカー中学生」
兄貴が顔をいっそうしかめた。
「世も末だな。とりあえず来年十八になるまで大事に使って、その後うちに売れ」
「もう置く場所ないよー」
「自業自得!」
店を出て、裏の玄関から家に入って二階に上がる。
自室に戻ると、隅っこにバッグの袋を投げ出した。本当にもう足の踏み場がない。
こっちは女の子らしくしてみたいだけの男なのに、なぜ男とわかっても貢ぐのか?
「今日は化粧品の方が正直うれしかったな」
CだのDだのGだの様々なブランドの小さな手提げ袋ににんまりする。
貴文は当たりだった。あと何度かは付きあってやってもいいなと、沙也加こと幸次郎は思った。
――了――
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