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 そうしているうちに、あいつの顔が近付いてきた。逃げようとしても手を伸ばして追い掛けてくる。  そんな動きに囚われ、あいつの唇が俺の唇に重なった。閉ざしたところから舌先を割り入れ、俺の口腔を確認する。  そしてすぐに離れていった。 「うん、美味しい」 「……あのな、同じものなんだから当たり前だろ」 「もしかしたら場所によって味が違うかもしれないって思った」 「こんな短時間でそんな豪勢なものが作れるか」  そう言うと、あいつは盛大に笑い出した。  こんな会話は当たり前の光景だ。一体それのどこが面白いのだろうか。  あいつの思考は理解できないが、この姿をそっと眺めている時間は悪くない。笑っている顔が、俺を幸せな気分にさせる。

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