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第1話

「よぅ!久しぶり。なんだよつきあい悪いと思ったら彼女できたのかよ!水くさいな。早く教えろよ」 一見するとにこにことした笹原が手を振りながら声を掛けてきたとき、そのまったく笑ってない目に気づいて頬がひきつるのが自分でも分かった。 笹原とは高校からの付き合いで最初は同じ課題に取り組むグループメンバーとして。いつの間にか誰よりも近くにいた笹原に惹かれていると気づいたのは文系志望のアイツと機械工学に興味を持った俺の進路がどうやっても同じに出来ないことに焦りを感じた時だった。 「俺さ、お前の事が好きなんだ。」 受験を目前にした告白は玉砕を覚悟したものだったが、恥ずかしそうに目を逸らして掠れた声で「まじかよ…」と呟いた笹原が俺の肩に頭を預けて「オレもだよ」と応えた事で成就した。 それからはお互いの志望大を目指して共に頑張る毎日。合格したらエッチしようを合言葉に、学校では苦手科目を教え合い、学習塾も一緒に通い、帰り際には自宅への分かれ道で軽いキス。 帰宅してもLINEトークをしながら受験勉強をした。 2人揃って合格通知をもらい、自由登校期間に入った俺たちは毎日のようにどちらかの家に入り浸り、それまでの禁欲生活を解放して若い性欲を発散しまくった。 俺たちの関係がおかしくなりだしたのは大学生になって半年が過ぎたあたりからだった。 ***** その店でバイトを始めたのは、独り暮らしをする為の資金を貯めたいと思ったからだった。 笹原も俺も実家暮らしだから、どちらかの家に入り浸りなど到底ムリ。エッチ後のアレやコレやな始末も親の目を盗んでしなければならない。かと言って毎回ホテルなど言語道断。この辺りのホテルは同性カップルお断りが多いし何より資金が続かない。 だから独り暮らしがしたくて俺は必死に働いた。 しかしバイトを始めて2ヶ月が過ぎた頃からそれは始まった。 「店長、この日なんっすが……」 貼り出されたシフト表を見て絶句する。まるで俺の必要単位を把握しているかのように空いた時間の全てにシフトを組まれていた。 これでは笹原に会いに行く時間が取れない。 「ん?ああ、ウチも人手不足でさぁ〜新しい子を募集してるからしばらくは頼むよ〜」 眉を下げてお願いしてくる店長に何も言えなかった。それに稼げば稼ぐだけ資金も貯まる。今だけ、今を我慢すれば好きな時に好きなだけ笹原とイチャイチャできると単純な俺は考えた。 笹原へはバイト先が人手不足で大変な事、なかなか会えなくて寂しい事をLINEで伝えて納得してもらい、俺は大学とバイトに明け暮れた。 バイトに慣れてくると仲間とも親しくなる。 休憩時間に仲間うちで恋バナで盛り上がり、俺は恋人が同性という事はボカしてマジ惚れの本命がいる事をアピールしまくった。 そうなると、最初は俺にアプローチしてきた女子達は俺に恋愛相談を持ちかけるようになってきた。男が好む髪型や服装、会話術など俺は調子に乗ってペラペラ語った。 休憩時間は短いがときどき誘われてバイト先の近くにあるカフェへドリンクをテイクアウトする為に女子と出かける事もある。 笹原に見つかったのはそんな一瞬だったのだ。

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