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第2話

満面の笑顔な笹原は引きつったまま固まる俺には目もくれず、傍にいる女子に優しく話しかける。 「オレは笹原、後藤の高校のダチなんだ。」 もちろん女子とはバイト仲間でしかない。勘違いする笹原へ彼女はにこにこと自己紹介した後 「後藤さんとはバイト仲間です。それに後藤さんにはラブラブな彼女さんがいるそうですし♡」 などと宣った。 もちろん俺にとっての"ラブラブな彼女"とは目の前の笹原なのだ!しかし、 「ラブラブな彼女、へぇ〜」 笹原の言葉とともに鋭く突き刺さる視線が痛い。 笹原はさらに問いたいことがあったのか口を開こうとしていたが 「後藤さん、そろそろ戻る時間です!」 幸か不幸か女子の指摘で俺たちは気まずい雰囲気のままその場を離れた。 その日もバイトが終わるのは深夜で、そんな日に限って客は満タンで店長は差し入れと称して近所のパティスリーで人気のショコラ詰め合わせをバイト達へ振る舞った。 「ごめんな〜正月明けには新しいバイト増えるはずだから!!」 店長の幼なじみが経営するというその店のショコラは人気商品。毎日数量限定での販売だから入手は困難。何よりクリスマスを控えたこの時期は販売停止期間なんじゃなかろうか。 なんとなく違和感を感じながらも口に放れば、疲れた身体にショコラのほろ苦い甘さがちょうど良い。 「クリスマス、あ!クリスマスかぁ!!」 気づいて大声をあげた俺に店長始め閉店間際の店にいた客にまで注目されて、すんませんと頭を下げた。 まずい、まずい、まずい!! クリスマスはちょうど1年前、俺が告白をした日、記念日だ! こんなすれ違いでギクシャクしている訳にはいかない。 早く帰って笹原と話し合わないと! そんな想いに駆られて閉店後の掃除を猛スピードでこなし店長へのあいさつもそこそこに笹原の家へ駆けつけた。 勢い込んできたものの、日付が変わるような時間に呼び鈴を鳴らすことも出来ず、玄関前に立ち尽くす。 スマホを出そうとしてはたと気づいた。 ……店のロッカーに忘れてきていた。 玄関から少し離れて見上げると、2階にある笹原の部屋の電気が同じタイミングで消えた。 いまこの手にスマホがあればちゃんと話し合えたのに。 やるせない思いで灯りの消えた部屋を眺め、くしゃみを一つした。 「後藤クン、風邪ひいちゃうよ」 ふわっと温かい何かが後ろから急に俺を包み込んで背筋が凍るほどに驚いた。店長だった。 「え……なんで??」 いるはずのない人の出現に恐怖すら覚えて店長から距離を取ると彼は回り込んで俺の手を取った。 「後藤クン、スマホを忘れていくんだもん。僕慌てて追いかけてきたんだよ。ほらこんなに冷たくなって」 俺の手を両手でギュッと握り込んで彼は頬ずりをするように顔を寄せる。生理的な嫌悪感が込み上げてきてその手を振り払おうとしたがビクともしない。 「なんでこんな場所にいるの?偶然なんだけど僕の家に近いんだ。良かったら来るかい?」 店長は胡散臭い微笑みを浮かべて優しい言葉をかけてくる。しかし言葉とはうらはらに右手は俺の手を強く握りしめ、外した左手を俺の腰へ回して逃がさないとばかりにがっちりとホールドされた。 「あ、の……お、俺の家も近い、ですから……」 チラッと視線で笹原の部屋を確認し助けを求めようとしたが既に就寝中の真っ暗な部屋に絶望感だけを感じる。何より恐怖からか喉が締め上げられたように呼吸すら苦しく、大声などでてこない。 「後藤クン、遠慮なんか要らないよ〜。差し入れのショコラは食べたかい?君、気に入っていただろう?僕の家にまだまだあるから出してあげようね」 にこやかな会話と強引なエスコートに有無を言わさず俺は店長の家へ連行されて行くのだった……。

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