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要するに俺は、あきの性格をすっかり忘れていたんだ。
本当は甘えたなこと。
それなのに、義務感で、相手の期待に応えられるよう自分を押し殺すこと。
気づかなかった俺は本当にバカだと思って、日曜日の早朝、あきの家のチャイムを鳴らしていた。
5:00。まだ真っ暗。寝ているに決まっている。予告もなく来た。会えなかったらそれまでだ。
しばらく待っていると、インターホンから声が聞こえた。
「……はい?」
「成瀬」
「…………えっ?」
「早く開けて。寒い」
ガチャッとドアが開く。
寝ぐせがあさっての方向に向いた、寝ぼけまなこのあき。
目をごしごしとこする。
「深澄? 嘘でしょ? なんで?」
「嘘じゃない、実像。寒い」
玄関の中に滑り込むと、そのままあきの胴体に抱きついた。
「会いたかったー……」
しみじみと漏らす。呆然としていたあきは、おずおずと俺を抱きしめた。
「予備校は?」
「まだ5:00だよ。やってるわけない」
「なんで?」
寝ぼけているのか、質問のピントがズレている。
とりあえず無許可で部屋に上がり、そのままあきを寝室に連行した。
「抱いてもらいに来た」
「は?」
「自習室の開放は8:00から。3時間ある」
「え?」
「だから、して」
ずいっと迫ると、あきは慌てて顔をそらした。
「わかった、から、ちょっと歯磨きだけさせてお願い」
恥じらう姿が女の子みたいで、とてつもなく可愛かった。
もちろんすぐ始めるわけでもなく、服を着たまま、布団の中でごろごろしつつ話を始めた。
「こんな時間に出てきて、ちゃんと寝たの? 親御さんにはなんて?」
「寝たよ。親なんて起きてるわけないし、普通に出てきた。あとで追及されたら、目が覚めちゃったから予備校行った、でいい。向かいに24時間のファミレスがあるの、親も知ってるし」
「なんて大胆な犯行……」
ぽかんとしながらも、頬をするするとなでてくる。
「それで、あの、そろそろキスして欲しいんですけど」
さっきからあきは、なぜか、キスしてこようとしない。
いつもなら何も言わなくてもすぐしてきて、ずーっと好き勝手にあちこちにキスし続けてくるのに。
「あ、なんか、本物って思ったら……あはは、何言ってるんだろうね僕は。まだ眠たいのかな」
そう言いながら顔をギリギリまで近づけてきて、しかしそこで止まった。
「……やっぱり」
「なに?」
「深澄、可愛い。頭の中で想像してたのより、何倍も」
顔が近づいてきて、やわらかいくちびるが、ふにっと当たる。
ついばむように何度か口づけ返すと、あきは気持ちよさそうに目を閉じた。
「このあと予備校なんだよね?」
「うん」
「じゃあさわりっこにしよっ……」
「抱いてください」
ギョッとした顔でこちらを見る。
「深澄?」
「俺、あきが言ってた意味わかったよ。あき、めちゃめちゃ欲しそうにしてるんだもん。あんなの毎日学校でやられちゃたまらないよね」
「えっ……欲しそう? って?」
「俺を見る目が、欲しくてたまらないって言ってた。かっこいい先生にあんな寂しげな目で見られてさ、俺ってどうしちゃったんだろうって思ったよ。そんな人生だったっけ? って」
あきは、だんだん意味を理解してきたのか、じわじわと恥ずかしそうな表情に変わっていった。
「僕、そんな目で見てた?」
「他のひとに勘づかれたらどうしようかと思ったくらい」
「うわあ……ごめん。完全に無自覚」
さらっと頭をなでる。
「あきは甘えたなんだよ。電話ででも、もっと好きって言ったらよかったね。ごめん」
いつもしてくれるみたいに、あきのおでこにキスを落とす。
「廊下でぶつかってきてくれたの、あれ、ありがとうって言っていいのかな。うん、でも、ありがとう。うれしかった」
「ほんとは『好き』って言おうと思ったんだけど……顔に出ちゃうかなって思って。お互い」
「そうだね」
眉根を寄せて笑う。間近で見たら、やっぱりかっこいい。
「ん、ねえ。あき、したい」
「ほんとにいいの? 授業受けられる?」
「したあと授業受けたことなんて何回もある」
土曜日の昼過ぎまでデートして、午後から夜まで予備校。
毎回ではないにしろ、何度だってした。
自習室で、腰の疼 きに身悶えたり、思い出して愛しくなったり、頑張ろうって思ったり、会いに帰りたくてどうしようもなくなったり。
「いや……いつもより優しくなかったらごめんね、っていう。なんか、優しくできる自信ないなって」
あきはそう言って、ちょっと笑いながら起き上がった。
ちょいちょいと手招きをする。
そばに寄ると、キスしながら、1枚1枚服を脱がしてくれた。
その手つきすらいやらしく感じて、手の温度とか動きに感覚を集中すると、それだけで興奮した。
お互い裸になると、俺もあきも、既に火がついている。
「ん、興奮してる」
「当たり前でしょ。深澄に触れるの、久々だもの」
あきは、まるで壊れ物を扱うかのようにそっと俺の頬に触れ、味わうようなキスをした。
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